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怪我が多いアスリートは「胃」を疑え!専門医が指摘するピロリ菌とパフォーマンスの意外な関係

執筆者の写真: 山崎 広治
山崎 広治
16 時間前
読了時間: 10分
怪我が多いアスリートは胃を疑え

はじめに

同じメニューで練習して、同じものを食べている。それなのに、なぜか一人だけ、怪我が多い選手がいる。皆さんのまわりにも、そんな選手はいませんか?あるいは、ご自身のことかもしれません。しっかり寝ているのに、疲れが抜けない。

鉄のサプリを飲んでいるのに、健康診断で毎年「貧血気味」と書かれる。その答えが、筋肉でも、フォームでも、練習量でもなく、「胃」にあるかもしれないとしたら、どうでしょう。こんにちは。

KARADA DESIGN & MANAGEMENT、パフォーマンスディレクターの山崎です。今回のテーマは、オーソモレキュラー、つまり栄養療法でお世話になっている先生との会話がきっかけです。本記事では、胃にすむ「ピロリ菌」と、栄養の吸収についてお話しします。

何を食べるかだけでなく、それをちゃんと吸収できているか。この視点は、アスリートの方はもちろん、疲れが抜けない経営者の方、選手を預かる指導者の方にも、役に立つはずです。本記事の内容は、すべて論文や公的な資料をもとにしています。

どの研究の話なのかも、その都度お伝えしていきますね。

同じ練習でも怪我が多い選手

1.ピロリ菌と「吸収」を知る

1-1.ピロリ菌とは何か

まず、ピロリ菌の基本からです。

正式には、ヘリコバクター・ピロリといいます。胃の中にすみつく細菌で、多くは子どもの頃に感染して、そのまま何十年も胃の中にいると考えられています。胃の中は、強い酸でいっぱいです。普通の菌は生きられません。

ところがピロリ菌は、自分のまわりの酸を中和して、胃の粘膜にすみ続けることができるんです。

ピロリ菌と吸収

1-2.生まれた年によって異なる感染率

では、日本ではどれくらいの人が感染しているのでしょうか。2017年に、愛知医科大学のワン氏らが、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した研究があります。日本人のピロリ菌の感染率を調べた研究をまとめて、合わせて約17万人分のデータを分析したものです。

この研究によると、感染率は、生まれた年によって大きく違います。1950年生まれでは約59%、1970年生まれでは約35%、1980年生まれでは約25%、1990年生まれでは約16%、2000年生まれでは約7%と推計されています。

つまり、40代、50代の経営者の世代では、4人に1人から3人に1人くらいが感染していた計算になり、今も気づかずに持っている人が少なくありません。一方で、若いアスリートの世代では減ってきていますが、ゼロではありません。

そして、感染していても、はっきりした自覚症状がない人がほとんどです。自分が持っているかどうかは、検査をしないと分からない。ここが大事なポイントです。

生年別の感染率推計

1-3.慢性胃炎と鉄の吸収

では、ピロリ菌がいると、体の中で何が起きるのでしょうか。ピロリ菌がすみつくと、胃の粘膜に炎症が続きます。これを慢性胃炎といいます。炎症が⻑く続き、胃の粘膜がやせてくると、胃酸が出にくくなることがあります。

胃酸というと、胃もたれや胸やけの原因というイメージが強いかもしれません。でも、鉄が腸で吸収されるためには、その手前の「胃」での下準備が欠かせません。胃酸や、胃の中のビタミンCには、食べ物の鉄を、体が吸収しやすい形に変える役割があるからです。

特に、野菜や海藻などに含まれる鉄は、胃酸やビタミンCの助けがないと吸収されにくい性質があります。ところがピロリ菌による炎症が続くと、胃酸だけでなく、胃の中のビタミンCも減ってしまうことがわかっています。

さらに、ピロリ菌そのものが、鉄を自分の成⻑のために奪ってしまう、というしくみも指摘されています。このあと紹介する2022年の論文でも、ピロリ菌が鉄不足を起こすしくみとして、こうした点が挙げられています。

元のnote記事では、カルシウムやマグネシウムにも触れました。ただ、研究のデータがはっきりしているのは、鉄との関係です。本記事では、鉄を中心にお話しします。

慢性胃炎のしくみ
鉄が吸収されにくくなる理由

2.鉄不足とパフォーマンスの関係

2-1.酸素を運ぶ力と体をつくる力

では、鉄が足りないと、なぜ怪我や疲れにつながるのか。

理由は二つあります。一つ目は、酸素を運ぶ力です。鉄は、血液の中で酸素を運ぶヘモグロビンの材料です。足りなくなると、全身に酸素が届きにくくなり、スタミナや持久力が落ちやすくなります。

経営者の方なら、午後になると頭が回らない、集中が続かない、という形で表れることもあります。二つ目は、体をつくる力です。腱や靭帯、骨の土台になっているのが、コラーゲンというたんぱく質です。

2003年に医学誌「アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビューズ」に掲載された、ゲルゼ氏らのコラーゲンについての総説では、たんぱく質から強いコラーゲンを合成する過程で、酵素を働かせるための「欠かせないサポート役」として、鉄とビタミンCが働くことが説明されています。

つまり、いくらプロテインでたんぱく質を入れても、鉄が足りない状態が続くと、体を修復したり、強くしたりする土台が整いにくい。こう考えられるわけです。ここで一つ、正直にお伝えしておきたいことがあります。

「ピロリ菌がいるから怪我をする」と、研究で直接確かめられているわけではありません。鉄が不足する、だから体の修復や持久力に影響する、というしくみから考えられる、可能性の話です。だからこそ、思い込みで決めつけず、検査で確かめることが大切なんです。

鉄と酸素運搬
鉄とコラーゲン

2-2.研究でわかっていること

では、ピロリ菌と鉄不足の関係は、研究でどこまでわかっているのでしょうか。2022年に、医学誌「キュレウス」に、サジュ氏らの論文が発表されています。タイトルは、「ピロリ菌は、原因のわからない鉄欠乏性貧血の原因なのか」。

鉄欠乏性貧血とは、体の鉄が足りなくなって起きる貧血のことです。この論文は、1995年から2022年までのデータベースから選ばれた10の研究、合わせて7,144人のデータをまとめた、系統的レビューです。

系統的レビューとは、決まった手順で関連する研究を集めて、まとめて評価する方法のことです。結論として、この論文は、ピロリ菌と鉄欠乏性貧血の間には関係がある、とまとめています。

そして、除菌治療を行った臨床試験では、除菌に成功したグループにおいて、いずれも体にたくわえられた鉄の量を示す「フェリチン」が上がったと報告されています。一方で、貧血の指標であるヘモグロビンは、上がった研究もあれば、変わらなかった研究もあります。

著者たちも、原因と結果をはっきりさせるには、さらに研究が必要だと書いています。ですから、「除菌すれば必ず良くなる」とは言えません。ただ、「原因がわからない鉄不足があるなら、ピロリ菌を調べる価値はある」。ここまでは言える、ということです。

この考え方は、医療の現場の指針にも入っています。ヨーロッパを中心とした専門家がピロリ菌の診療についてまとめた、マルファタイナー氏らによる「マーストリヒト・フローレンス合意報告」という国際的な指針があります。

2017年に医学誌「ガット」に掲載された第5版では、原因がはっきりしない鉄欠乏性貧血の人にはピロリ菌を調べて除菌することが提案されていたものの、この時点では推奨の強さは「弱い」とされていました。

しかし、その後さらに研究が積み重なり、2022年に同じく「ガット」誌に発表された最新の第6版「マーストリヒト6」では、原因不明の鉄欠乏性貧血に対するピロリ菌の除菌が、最も高いランクである「強い推奨」へと引き上げられました。

日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、鉄欠乏性貧血は「除菌が強く勧められる疾患」に位置づけられています。ここでのポイントは、「原因がはっきりしない」という部分です。

月経や、明らかな出血、極端な食事制限など、鉄が減る理由がほかにある場合は、そちらを先に考えます。でも、食事もサプリも気をつけているのに、鉄の数値が上がらない。そんなときに、「もしかして吸収の問題では?」と考える視点が、ここにあるわけです。

研究とガイドライン

2-3.アスリートは鉄が不足しやすい

では、なぜこの話が、特にアスリートにとって大事なのか。もともとアスリートは、鉄が不足しやすい人たちです。

2008年に「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジオロジー」に掲載された、⻄オーストラリア大学のピーリング氏らの総説では、運動による汗や、赤血球が壊れること、尿や消化管からのわずかな出血などで、鉄が失われることが挙げられています。

さらに、激しい運動のあとには、「ヘプシジン」というホルモンが増えて、鉄の吸収が一時的に妨げられる可能性も示されています。そこに、胃での「吸収の下準備」の問題が重なったらどうなるか。出ていく鉄は多いのに、入ってくる鉄は少ない。

しかも本人は、「ちゃんと食べている」「サプリも飲んでいる」と思っている。これでは、いくら頑張っても、数値が上がらないのも無理はありません。経営者の方も同じです。ワン氏らの研究のとおり、40代、50代は感染している人が比較的多い世代です。

疲れが抜けない、検診で貧血を指摘され続けている。そういう方は、一度「吸収」という視点を持ってみてください。

アスリートの鉄不足

3.検査と対策を考える

3-1.検査を考える4つのサイン

ここからは、実践編です。

次のようなサインに心当たりがあれば、一度、検査を考えてみてください。一つ目。鉄のサプリを続けているのに、フェリチンの数値が上がらない。二つ目。食事量を増やして、プロテインも飲んでいるのに、なかなか体が大きくならない。三つ目。

休んでも疲れが抜けにくく、肉離れなどの怪我を繰り返している。そして四つ目。胃もたれや、食後の胃の不快感がよくある。もちろん、これらに当てはまるからといって、ピロリ菌がいるとは限りません。ほかの病気や、練習量、睡眠など、別の原因も考えられます。

あくまで、「調べてみる価値があるかどうか」を判断する目安として使ってください。

検査を考える4つのサイン

3-2.検査・除菌治療・判定まで

では、どうやって調べるのか。ピロリ菌の検査には、息を袋に吹き込む「呼気検査」、便を調べる「便中抗原検査」、血液で調べる「抗体検査」、そして胃カメラで組織を調べる方法などがあります。

日本では2013年から、まず胃カメラで慢性胃炎が確認され、そのうえで検査によってピロリ菌の感染がわかれば、除菌治療に健康保険が使えるようになっています。

健康診断の血液検査などで「ピロリ菌陽性」と出た場合も、保険で治療するには先に胃カメラで胃の状態を確認する必要がありますので、まずは消化器内科などで相談してみてください。除菌治療は、胃酸を抑える薬と2種類の抗菌薬を、1週間飲むのが一般的です。

そして、薬を飲み終えてから4週間以上あけて、本当に菌がいなくなったかを、もう一度検査で確かめます。ここまでがワンセットです。薬を飲んでいる1週間は、抗菌薬の影響でお腹がゆるくなることもありますし、最後の判定検査まで含めると1〜2ヶ月ほどかかります。

アスリートの方は、大事な試合の直前を避けて、オフシーズンなどに時期を医師と相談するといいと思います。そして、もう一つ大事なことがあります。自己判断で、鉄のサプリをやめたり、急に量を増やしたりはしないでください。鉄は、とりすぎても体に負担がかかります。

数値を見ながら、医師と一緒に調整することが大切です。

検査から除菌判定まで

まとめ|「何を足すか」の前に「吸収できているか」

私たちは、調子が悪いと、つい何かを「足そう」とします。サプリを増やす。プロテインを増やす。練習を増やす。でも、吸収する胃腸の土台が整っていなければ、足したものが体に届きにくいかもしれません。まず、今日からできることは一つです。

最近の健康診断や血液検査の結果を、引っぱり出してみてください。ヘモグロビンと、もし測っていればフェリチン。この二つの数値を確認するところから始めましょう。

フェリチンは、通常の健康診断には入っていないことも多いので、気になる方は、次の受診のときに医師に相談してみてください。本記事では、怪我や疲れが続く原因の一つとして、胃のピロリ菌と栄養の吸収についてお話ししました。

サジュ氏らの論文や、最新のマーストリヒト合意が示しているように、原因のわからない鉄不足があるなら、ピロリ菌を調べる価値があります。ただし、怪我との直接の関係は、まだ研究の途中です。だからこそ、決めつけずに、検査で確かめることが大切です。

「何を足すか」の前に、「ちゃんと吸収できているか」。皆さんは、ご自身の血液データ、最近いつ確認しましたか?

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参考文献

Wang C, et al. Scientific Reports. 2017;7:15491.

Malfertheiner P, et al. Maastricht V/Florence Consensus Report. Gut. 2017;66:6–30.

Malfertheiner P, et al. Maastricht VI/Florence Consensus Report. Gut. 2022;71:1724–1762.

Peeling P, et al. European Journal of Applied Physiology. 2008;103:381–391.

Gelse K, et al. Advanced Drug Delivery Reviews. 2003;55:1531–1546.

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