AIを経営の力に変える|国内経営者6人の公開事例を解説 — 経営者と組織のパフォーマンス向上術


はじめに
AIで、会議の準備が30分早く終わった。
その30分で、何をしていますか?
たまっていたメールを返す。別の会議を入れる。気づけば、それで一日が終わっている。
仕事は速くなったのに、経営を考える時間は増えていない。そんな感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本当は、その30分を顧客への質問を練る時間や、社員の相談を聞く時間に使いたいはずです。経営者にとっても、アスリートにとっても、成果を分けるのは「空いた時間で何をするか」です。
では、実際の経営者は、何をAIに任せているのでしょうか。
本記事では、国内の経営者6人とその会社の事例から、AIに何を渡し、どう頼み、どこを人が確かめるのかを整理します。事例ごとに、私からの応用例として、そのまま使える質問文も紹介します。
そして後半では、AIを使った人のほうが正しい答えにたどり着きにくくなった、758人の実験も取り上げます。
この記事でわかること
✅ 経営者6人とその会社が、AIに何を任せているか
✅ 商談準備・記録・企画の点検で、そのまま使える質問文
✅ AIに任せると判断を誤りやすい仕事と、取り戻した時間の使い方

1. 準備・記録・相談をAIに任せる|経営者3人の実例
1-1. 南場智子さん(DeNA)に学ぶ「調べるのはAI、聞くのは自分」
DeNAの南場智子さんは、2025年の講演で、初めて会う相手を調べる手順を話しています。
まず、AI検索のPerplexity(パープレキシティ)で、その人について読むべき記事を探します。次に、記事のリンクや本人が出演したYouTube動画を、NotebookLM(ノートブックエルエム)に入れます。NotebookLMとは、入れた資料について質問できるAIのことです。
そして、打ち合わせへ向かうタクシーの中で、その資料について質問するのです。
会社概要だけでなく、相手が最近何に悩んでいるかを知っておく。同じ30分の面談でも、聞けることが変わります。
皆さんなら、公開されたインタビューと会社資料を集めて、こう頼んでみてください。
「この資料から、相手が繰り返し話している課題を三つ挙げてください。それぞれに出典をつけて、面談で確認する質問を一つ作ってください」
たとえば相手が何度も人材育成について話していたら、質問は「御社の課題は何ですか?」では終わりません。「人材育成を重視されていると拝見しました。今は、採用と入社後の育成のどちらに難しさを感じていますか?」と、具体的に聞けます。
資料で分かることは押さえ、分からないところを本人に聞く。推測で人物像を決めつけるのではなく、質問を深めるために使うのがコツです。
南場さんは会議では、相手の許可を取ったうえでAI議事録ツールのCircleback(サークルバック)を使い、議事録と次にすることを整理しています。投資検討では、AIに調査を任せるディープリサーチで情報を集めてから面談に臨むことも話しています。
情報探しを短くして、相手の話を聞き、判断材料を確かめることに力を使う。ここに役割分担の考え方があります。
✅ ポイント:調べるのはAI、聞くのは自分


1-2. 福島良典さん(LayerX)に学ぶ「要約ではなく、項目で頼む」
議事録ができても、別のシステムに入力する作業が残っていませんか?ここを変えたのが、福島良典さんが率いるLayerXです。
同社の公式記事では、福島さんが「AIで顧客に向き合う時間を増やしたい」と話したことが、社内ツール「セールスポータル」開発のきっかけになったと説明されています。
このツールは、商談の文字起こしや要約を行い、顧客管理システムのSalesforce(セールスフォース)へ連携します。
ある営業担当者の例では、以前は商談の録画を聞き直し、要約して入力するまで一件15分ほど。一日三件なら45分かかっていました。導入後は、連携ボタンを押して内容を確認し、5分程度で作業が終わると話しています。これは一人の担当者が報告した事例です。
録画を探す。聞き直す。まとめる。別の画面へ転記する。減らしたのは、この一連の手間です。
同じツールには、商談中の確認事項を抽出したり、商談の改善点を示したりする機能もあります。記録を残すだけでなく、次の商談を良くするところまで使っているのです。
同じ社内ツールを買えるわけではありませんが、最初の一歩は試せます。了承を得て記録した商談の文字起こしを、会社で認められたAIに渡し、こう頼みます。
「顧客の課題、導入を迷う理由、こちらが約束したこと、次の行動を、顧客管理表の項目に合わせて整理してください。予算や期限が語られていなければ、未確認と書いてください」
長い要約を作るより、そのまま記録に使える項目を指定する。そして、確認した内容を顧客管理表へ入れる。商談のあとに何度も同じ内容を書いているなら、そこがまず改善候補です。
✅ ポイント:要約ではなく、項目で頼む


1-3. 熊谷正寿さん(GMO)に学ぶ「判断基準を渡してから、相談する」
社員から社長への相談はどうでしょう。毎回、社長が企画を読み、同じ判断基準を説明している。そんな会社は少なくないはずです。
ここにAIを使っているのが、熊谷正寿さんが率いるGMOインターネットグループです。2024年12月の公式発表で、Claudeを使った社内ツール「AI熊谷正寿」の提供開始が紹介されています。
もとになっているのは、熊谷さんの経営哲学やグループの考え方をまとめた「GMOイズム」です。社員は、自分の事業プランや宣伝プランについて、その考え方に沿った助言を受けられます。
参考にしたいのは、相談の前に、自社の判断基準をAIに渡している点です。
たとえば、皆さんの会社が短期の売上よりも継続契約を大切にしているとします。新規顧客だけに大幅な値引きをする企画が出たとき、売れそうかどうかに加えて、既存顧客への影響や更新時の価格も考えたいところです。会社の方針と企画書を渡して、こう聞きます。
「この企画を、添付した会社の方針に照らしてレビューしてください。合っている点、矛盾する点、社長に確認すべき点を分けてください」
社長の答えをAIに決めさせるのではありません。社員が相談前に論点を整えるために使います。社長も、毎回ゼロから説明する負担を減らせます。
社員が「どうしたらいいですか?」だけで来る状態から、「この方針なら、この案を考えました。ただ、ここは確認したいです」と相談できる状態へ。目指したいのは、こうした相談の変化です。
✅ ポイント:判断基準を渡してから、相談する


2. 個人の時短を、組織の仕組みに変える|3社の取り組み
2-1. 山田進太郎さん(メルカリ)に学ぶ「元の記録へ戻れるようにする」
判断基準があっても、肝心の資料が見つからなければ使えません。「あの話、どこに書いてあったっけ?」を減らす取り組みが、山田進太郎さんのメルカリです。
山田さんが推進するAI活用の具体策として、情報共有ツールのNotion(ノーション)と、Notion AIの全社導入があります。提供元の公式発表では、プロジェクトの進捗や会議の記録をまとめ、議事録作成や社内情報の検索に活用していると説明されています。
身近な仕事に置き換えてみましょう。先週の営業会議で、値上げをいつ顧客へ案内すると決めたのか。誰が担当で、何がまだ決まっていないのか。
議事録やチャットを探し回る代わりに、まずは一つの案件の資料だけで試します。
「この案件の決定事項、未決事項、担当者、期限をまとめてください。資料の記載が食い違う場合は、両方の出典と日付を示してください」
大切なのは、答えだけでなく、元の記録へ戻れることです。どの会議で決まったのかを確認できれば、AIの回答を仕事で使いやすくなります。
✅ ポイント:答えと一緒に、元の記録へ戻れるようにする


2-2. 藤田晋さん(サイバーエージェント)に学ぶ「作り方ごと共有する」
多くの会社で時間を取られるのが、お客様からの問い合わせ対応です。
藤田晋さんのサイバーエージェントでは、広告担当者向けに「シーエーアシスタント」という社内アプリを開発しています。公式発表では、広告の分析や効果計測、顧客への一次回答などをAIが支援すると説明されています。社員は、日常的に使うSlack(スラック)から対話形式で利用できます。
参考にしたいのは、社員が普段仕事をする場所に支援を組み込んでいることです。
皆さんの会社なら、よくある問い合わせを一つ選び、承認済みの説明資料と一緒に渡してみてください。
「この問い合わせへの回答案を、添付資料の範囲で作ってください。根拠のない説明は足さず、担当者が確認すべき点を別に示してください」
お客様へ送る前に、数字や約束の内容は担当者が確認します。
同社は、全社員向けの生成AI研修も打ち出しています。皆さんの会社なら、一人がうまくいった回答例を、使った資料と質問文ごと共有しましょう。完成品だけでなく作り方を残すと、ほかの社員も同じように試せます。
✅ ポイント:作り方ごと、共有する


2-3. 宮川潤一さん(ソフトバンク)に学ぶ「前後の受け渡しを見直す」
最後は、少し先の使い方です。
宮川潤一さんのソフトバンクでは、通信ネットワーク向けの「ラージテレコムモデル」を使い、複数のAIを連携させる検証を進めています。2026年3月の発表は、その検証開始についてです。
基地局の開設や機器の変更時に異常が見つかったら、原因を調べ、対応方針を示し、関係者への報告や対応へつなげる。分析結果を次の担当のAIへ渡して、仕事を進める仕組みです。
皆さんの仕事なら、問い合わせ対応でこう聞いてみます。
「問い合わせ対応を、分類、資料確認、回答作成、承認、送信に分けてください。各段階で必要な情報と、人の確認が必要な点を整理してください」
一か所だけを速くしても、その前後で仕事が滞れば、全体の時間は短くなりません。チームスポーツでパスの精度が試合の流れを左右するように、仕事も「受け渡し」の質が成果を左右します。
✅ ポイント:一つの作業を速くしたら、前後の受け渡しも見直す


3. AIに任せすぎない|判断の質と、取り戻した時間の使い方
3-1. 758人の実験が示す「ギザギザの境界」
準備も、相談も、分析も任せられるなら、経営判断までAIに頼めば良いのでしょうか?
この問いに関係するのが、ハーバード・ビジネス・スクールなどのデルアクア氏らによる研究「Navigating the Jagged Technological Frontier」です。AIが得意な仕事と不得意な仕事の境目を調べた研究で、BCG(ボストン コンサルティング グループ)のコンサルタント758人を対象に、当時のGPT-4を使った仕事を比較しました。
ある課題は、新しい靴の商品アイデアや説明を考えることでした。この課題では、AIを使った人の作業速度や成果物の評価が改善しました。
一方、売上などの表とインタビューを読み、どの販売経路に力を入れるべきかを経営者へ提案する課題では、結果が逆になりました。AIを使った人のほうが正しい答えにたどり着きにくくなり、AIを使わなかった人と比べて、正解した割合は19ポイント低かったのです。
同じ提案業務でも、一方では役に立ち、もう一方では判断を誤ることがある。仕事が簡単か難しいかだけでは見分けられません。この、得意と不得意が入り組んでいる状態を、研究では「ギザギザの境界」と呼んでいます。
たとえば、値上げを案内する文章が上手に書けたからといって、その値上げで利益が増えるかまで正しく判断できたとは限りません。
だからこそ、回答が分かりやすいかだけでなく、数字・根拠・前提を確かめる。この実験は当時のモデルによるものですが、「自社の仕事で確かめる必要がある」という教訓は、今も参考になります。

3-2. 時短を成果に変えるには「先に予定を入れる」
ただし、時短だけでは働き方は変わりません。
南場さんは2026年の講演で、業務が効率化しても社員が別の仕事を取りに行くため、新規事業への人材の移動が思ったほど進まなかったと話しています。そこで、余力が生まれるのを待つのではなく、先に人を動かす必要性を述べています。
これを、皆さんの来週の予定に置き換えてみましょう。顧客へのヒアリングや社員との面談を増やしたいなら、まずその時間をカレンダーに入れる。そのうえで、どの作業を短くするかを決めるのです。
たとえば、週次報告の準備をAIで短くして、空いた30分を停滞している案件の相談に使う。翌週に「報告作成は何分短くなったか」と「案件の次の行動が決まったか」を確かめる。これなら、時短と仕事の成果を別々に確認できます。
最初の一週間は、次の手順で一つの仕事だけを試してみてください。
✔ 商談準備・記録・企画の点検から、一番困っているものを一つ選ぶ
✔ 完成までの時間には、AIの出力を確認・修正する時間も含めて測る
✔ 質問が具体的になったか、約束の抜け漏れが減ったか、社員が次の行動を決めやすくなったかを見る
✔ 使えた資料と質問文を、もう一人の社員と共有する
個人の使い方を、組織でも再現できる形にしていきます。

3-3. 取り戻した時間で「判断できる状態」を整える
そして、もう一つ大切なことがあります。取り戻した時間を、すべて仕事で埋める必要はありません。
トップアスリートの現場では、データ分析や映像の整理をスタッフが担い、選手は試合での判断とコンディションづくりに集中する、という分業がよく見られます。準備を任せる目的は、本番で良い判断をするためです。
経営者も同じです。夕方まで頭を使い続けている方なら、重要な判断の前に短い休憩を入れる。落ち着いて考えられる状態をつくることも、経営者のパフォーマンス設計の一部です。
3-1で見たように、AIの答えをうのみにすると判断を誤ることがあります。数字や前提を確かめる力は、疲れた頭では十分に働きません。AIを経営の力に変えるには、減らす作業と増やしたい仕事、そして判断の前の整え方を、セットで決めておくことが大切です。

まとめ
本記事では、国内の経営者6人とその会社の事例から、AIに何を任せ、どこを人が確かめるのかを見てきました。
南場さんの事例からは「調べるのはAI、聞くのは自分」、福島さんの事例からは「要約ではなく、項目で頼む」、熊谷さんの事例からは「判断基準を渡してから、相談する」という考え方を学べます。さらに、メルカリの「元の記録へ戻れるようにする」、サイバーエージェントの「作り方ごと共有する」、ソフトバンクの「前後の受け渡しも見直す」は、個人の時短を組織の仕組みに広げるヒントです。
一方で、758人の実験が示したように、AIには得意と不得意が入り組んだ「ギザギザの境界」があります。分かりやすい答えほど、数字・根拠・前提を人が確かめることが欠かせません。
そして、時短を成果につなげる鍵は、空いた時間を待つのではなく、増やしたい仕事を先にカレンダーへ入れることです。取り戻した時間の一部は、良い判断ができる状態を整えるためにも使ってください。
皆さんなら、取り戻した30分を何に使いたいでしょうか。まずは来週、一つの仕事から試してみてください。

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参考文献・サイト
南場智子氏(DeNA)講演(2025年・2026年)
LayerX 公式記事(社内ツール「セールスポータル」について)
GMOインターネットグループ 公式発表(2024年12月、「AI熊谷正寿」提供開始)
Notion 公式発表(メルカリにおけるNotion AI全社導入)
サイバーエージェント 公式発表(「シーエーアシスタント」について)
ソフトバンク 公式発表(2026年3月、ラージテレコムモデルを用いた複数AI連携の検証開始)
Dell'Acqua, F. et al. “Navigating the Jagged Technological Frontier” Harvard Business School Working Paper



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