ESG投資を呼び込む健康経営!企業価値を高めるウェルビーイング指標
- 山崎 広治

- 7月31日
- 読了時間: 7分

はじめに
「健康経営に取り組むと、株価や資金調達にも良い影響があるらしい」
そんな話を耳にしたことはありませんか?
じつはこれ、単なる噂ではありません。従業員の健康管理は、いまや投資家が企業価値を測るうえで重要視する「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の一角として、明確に位置づけられるようになっています。
とくにここ数年で急速に進んだのが、企業の「人的資本」を数値で開示する動きです。IPOや資金調達を将来の選択肢として視野に入れている経営者の方にとって、健康経営はもはや「やっておくと印象がいい取り組み」ではなく、「投資家との対話の土台になる経営インフラ」になりつつあります。
この記事では、ESG投資と健康経営がなぜ結びつくのか、投資家がどんなウェルビーイング指標に注目しているのか、そして中小企業が今から何を準備しておくべきかを整理していきます。

1. ESG投資と健康経営はなぜ結びつくのか
1-1 ESG投資とは
ESG投資とは、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という非財務的な要素も踏まえて投資先を選定する考え方です。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、投資先および市場全体の持続的成長が運用資産の長期的な収益確保に不可欠であると考え、サステナビリティ投資を行っています。
世界最大級の年金基金がこうした立場を明確にしていること自体が、ESGが一過性の流行ではなく、投資の意思決定プロセスに組み込まれた仕組みであることを物語っています。

1-2 健康経営とESGの親和性
健康経営は、まさにこの「S(社会)」の領域に深く関わる取り組みです。
経済産業省は健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義し、企業理念に基づいた健康投資が従業員の活力向上や生産性の向上といった組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると説明しています。
業績や株価という実際的な企業価値の向上に触れている点で、健康経営はESG投資の評価フレームワークと非常に相性の良い概念だと言えるでしょう。

1-3 人的資本開示という追い風
さらに追い風となっているのが、人的資本の情報開示をめぐる制度の整備です。
2023年1月に「企業内容の開示に関する内閣府令」等が改正され、2023年3月期の決算以降における有価証券報告書において、人的資本の情報開示が義務化されました。
しかも制度はここで止まらず、2026年3月期以降の有価証券報告書では、連結ベースの経営方針・経営戦略等と関連付けた人材戦略や、その人材戦略を踏まえた従業員給与等の決定方針といった開示がさらに義務付けられる方向で進んでいます。
人材への投資が「やって当たり前」から「開示して当たり前」のフェーズへと移りつつあるのです。

2. 投資家が見ているウェルビーイング指標
2-1 健康経営優良法人という「見える化」の仕組み
投資家や金融機関、取引先が企業の健康経営の取り組みを客観的に評価するための代表的な指標が「健康経営優良法人」認定です。
中小規模法人部門では上位500法人が「ブライト500」、それに次ぐ法人には「ネクストブライト1000」という冠が与えられ、社会的な信用の見える化に一役買っています。
認定を受けることは、単なる社内施策のアピールにとどまらず、外部のステークホルダーに向けた客観的な「お墨付き」として機能する点が重要です。

2-2 有価証券報告書に記載される健康関連指標
上場企業の開示事例を見ると、健康経営の取り組みがどのような形で人的資本開示に落とし込まれているかがよくわかります。
例えば、特定保健指導実施率や高ストレス者比率の推移状況を有価証券報告書に記載している企業もあります。労働時間や有給休暇取得率といった働き方に関する指標も、社内環境整備の状況を示す項目として開示が求められる代表的な指標です。
数字として一貫して開示・比較できることが、投資家にとっての安心材料になります。

2-3 「多様性」に関するKPIと企業価値の関係
投資家目線での定量分析も進んでいます。GPIFが実施した効果検証では、女性取締役比率や新規採用者に占める女性比率といった多様性に関するKPIが、トービンのQやPBRといった企業価値指標に統計的に有意な正の影響を与えていることが示されました。
健康経営そのものではありませんが、「働く人を大切にする組織運営」が企業価値に反映されるという構造は、ウェルビーイング指標全般に通じる示唆だと言えるでしょう。
3. 企業価値を高める具体的なウェルビーイング指標
3-1 プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム
欠勤(アブセンティーイズム)だけでなく、出社はしているものの体調不良で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態(プレゼンティーイズム)も、近年重視される指標です。
数値化しづらい印象がありますが、簡易的なアンケートによる自己申告スコアでも十分に傾向は掴めます。生産性のロスを可視化することは、健康投資のROI(投資対効果)を経営陣や投資家に説明する際の強力な材料になります。

3-2 エンゲージメントスコア
従業員が自社の仕事にどれだけ前向きに向き合えているかを示すエンゲージメントスコアも、無形資産としての人的資本を測る代表的な指標です。
人的資本には従業員が持つ能力や経験のほか、会社に対するエンゲージメント(従業員満足度)などが含まれ、これらは目には見えない無形資産として可視化・開示することが求められています。
健康経営の各種施策は、突き詰めればこのエンゲージメントを底上げするための土台づくりでもあります。

3-3 定着率・離職率
離職率の低さは、採用コストの抑制という直接的な経営メリットに加え、投資家から見ても「組織が安定的に機能している」ことのわかりやすいシグナルになります。
育児休業からの復職率・定着率なども合わせて追いかけることで、単なる離職率の数字以上に、組織のウェルビーイングの質を語れるようになります。

4. 中小企業・非上場企業がこの流れとどう向き合うか
4-1 上場準備を見据えるなら「今」から
有価証券報告書への人的資本開示義務は現状、上場企業約4,000社が対象です。しかし、IPOを将来の選択肢として考えている経営者にとっては、この流れは決して「他人事」ではありません。
上場審査の過程では労務管理や健康管理の体制も厳しく見られますし、開示のための指標やデータは一朝一夕に整うものではないからです。
健康経営の土台を今のうちから作っておくことは、将来の資本市場との対話に備える先行投資だと捉えることができます。

4-2 非上場でも評価される時代に
非上場企業についても、約4分の1は何らかの形で人的資本に関する情報開示を行っているというデータがあり、義務化の対象外であっても自主的な開示が徐々に広がりつつあります。
金融機関からの融資審査や、大手取引先からのサプライチェーン評価においても、従業員の健康管理体制が確認される場面は増えています。
中小企業にとって、健康経営は「投資家向け」であると同時に「取引先・金融機関向け」の信用材料でもあるのです。

4-3 まず着手すべきこと
いきなり有価証券報告書レベルの開示を目指す必要はありません。
まずは健康経営優良法人の認定要件をベースに、健診受診率やストレスチェックの実施状況、有給休暇取得率といった基礎的な指標を自社で継続的に記録するところから始めましょう。
数字として蓄積されたデータは、将来的にIR資料や採用ページ、金融機関への提出資料など、さまざまな場面でそのまま活用できる資産になります。

まとめ
健康経営は、従業員のためだけの取り組みではなく、ESG投資や人的資本開示という大きな潮流の中で、企業価値そのものを左右する経営インフラへと姿を変えつつあります。
ウェルビーイング指標を自社の言葉で語れるようになることは、投資家や金融機関、そして将来の従業員に対する信頼の土台になります。
まずは自社が今どんな指標を、どれだけ客観的に語れるのかを棚卸ししてみませんか。
KDMでは、経営者個人のパフォーマンスから組織全体のウェルビーイング指標づくりまで、一気通貫でサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください!

【YouTubeでの動画解説】
参照サイト
ESG投資と健康経営、見えない資産が企業価値になる時代(My Wells/マイナビ健康経営) https://kenkokeiei.mynavi.jp/step/20210913-1
ESG投資において注目される人的資本(人的資本・健康経営シリーズ②)(大和総研) https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20211027_022609.html
「ESG要素と企業価値に関する効果検証」報告書を公表しました(年金積立金管理運用独立行政法人) https://www.gpif.go.jp/esg-stw/project_report/esg_factors.html
人的資本開示とは?義務化された情報開示19項目や対象企業について(ABeam Consulting) https://www.abeam.com/jp/ja/insights/056/
人的資本開示の義務化が次のステージへ 2026年改正で何が変わるのか(株式会社ウチダシステムズ) https://uchida-systems.co.jp/lab/19538/
人的資本開示 2026 府令改正・指針改訂の解説(デロイト トーマツ グループ) https://www.deloitte.com/jp/ja/services/audit-assurance/perspectives/human-capital-disclosure-2026.html
人的資本開示とは?義務化の背景と19項目を解説(モチベーションクラウド) https://www.motivation-cloud.com/hr2048/c314
人的資本開示とは?義務化19項目や開示のポイント、開示事例を解説(Great Place To Work® Institute Japan) https://hatarakigai.info/library/column/20240731_3464.html


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