MVVより先に考えるべき「組織文化」のデザイン|強い組織はカルチャーからつくられる


はじめに
皆さんの会社には、Mission・Vision・Values、いわゆるMVVがありますか?
最近では、強い組織をつくるために、MVVを言語化する企業が増えています。
組織図を見直す。役割や権限を明確にする。評価制度を整える。1on1を導入する。マネージャー研修を行う。
もちろん、どれも重要な取り組みです。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてほしいことがあります。
組織デザインや組織マネジメント、そしてMVVよりも前に、考えるべきことがあるのではないか。
それが、「どんな組織文化をデザインするのか」ということです。
この最上流にある組織文化が定まっていなければ、どれほど精密な組織図をつくり、役割や権限を整え、優れたマネジメント手法を導入しても、うまく機能するとは限りません。
立派なMVVや制度をつくったのに、社員が主体的に動かない。部署同士が協力しない。会議で本音が出てこない。優秀な人ほど辞めていく。
そんな状態になっている会社も少なくありません。
さらに、短期的には売上や利益が伸び、数字だけを見れば成功しているように見えても、組織の内部では人間関係がギクシャクし、社員にとって居心地の悪い場所になり、本音やアイデアが出なくなることがあります。
なぜ、会社が掲げた言葉や整えた制度が、社員の行動につながらないのでしょうか。
私は、その根本的な原因の一つが、MVV、組織デザイン、組織マネジメントのさらに上流にある、「どんな組織文化をつくりたいのか」という問いが抜けていることだと考えています。
組織文化は、組織づくりにおける土台です。この土台の上にMVVがあり、組織デザインがあり、日々のマネジメントがあります。
今回は、なぜ組織文化を最初にデザインする必要があるのか。そして、数字だけではなく、人間関係や働きやすさも保ちながら、持続的に高いパフォーマンスを発揮できる組織をどうつくるのかを考えていきます。

1. 組織文化とは「その会社で何が当たり前なのか」
そもそも、組織文化とは何でしょうか。
組織文化研究で知られるエドガー・シャインは、組織文化を、目に見える制度や習慣だけではなく、組織の中で共有されている価値観や、無意識の前提まで含むものとして捉えています。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、私は、「その会社の中で共有されている当たり前」と考えると分かりやすいと思います。
例えば、社員が失敗したとき、「なぜ失敗したんだ」と責めるのか。それとも、「この失敗から何を学べるだろう」と考えるのか。
上司と意見が違ったとき、率直に自分の考えを伝えるのか。それとも、空気を読んで黙るのか。
誰かが困っているとき、部署や役職を越えて助けるのか。それとも、「それは自分の仕事ではない」と線を引くのか。
長時間働いている人が評価されるのか。短い時間でも、高い成果を出した人が評価されるのか。
こうした日常の小さな判断と行動の積み重ねが、組織文化をつくります。
つまり組織文化とは、会社案内やホームページに書かれている言葉ではありません。社員が、その会社で毎日実際に体験しているものなのです。
ここで、自社の会議を一つ思い浮かべてみてください。
会議で最も多く話しているのは誰でしょうか。役職に関係なく意見が出ているでしょうか。問題が起きたとき、原因を共有できているでしょうか。それとも、責任を追及されないよう、情報を隠しているでしょうか。
会議の一場面を見るだけでも、その会社の文化はかなり表れます。

2. MVVを掲げただけでは、文化は生まれない
では、なぜMVVだけでは十分ではないのでしょうか。
例えば、会社のValuesに「挑戦しよう」と書かれていたとします。
しかし、新しいことに挑戦して失敗した社員が、会議で厳しく責められたらどうでしょうか。
社員が学ぶのは、壁に書かれた「挑戦しよう」という言葉ではありません。実際の体験から、「この会社では、失敗しないほうが安全だ」と学びます。
「オープンコミュニケーション」を掲げていても、上司に反対意見を言った人が評価されなくなれば、本音を言う人はいなくなります。
「Well-being」を掲げながら、深夜の連絡や休日の対応が当たり前なら、社員は言葉ではなく、経営者や管理職の行動を信じます。
大切なのは、会社が言っていることと、社員が体験していることが一致しているかということです。
MissionやVision、Valuesと、経営者の行動。管理職のマネジメント。評価制度。会議の進め方。社内コミュニケーション。そして、日々の働き方。
これらが一貫して初めて、MVVは組織文化として根づいていきます。
ここで注意したいのが、文化は、意図的にデザインしなくても勝手に形成されるということです。
経営者がいつも「とにかく数字を出せ」と言い続ければ、成果を最優先する文化ができます。経営者自身が休まず働き続ければ、社員には「休むことは良くない」という暗黙のメッセージとして伝わる可能性があります。
会議で失敗した人を責めれば、「失敗は隠したほうがよい」という文化が生まれます。
反対に、良い挑戦を評価する。失敗から学ぶ。立場に関係なく意見を歓迎する。困っている人をチームで助ける。休むときには、きちんと休む。
そうした行動を経営陣や管理職が繰り返せば、まったく違う文化が形成されます。
「組織文化をつくらない」という選択肢はありません。
意図してデザインするのか。それとも、意図しない文化がいつの間にか生まれるのか。その違いなのです。


3. 組織文化がパフォーマンスを左右する3つの理由
組織デザインや組織マネジメントは、もちろん重要です。
しかし、その前提となる文化が定まっていなければ、制度や手法は思ったように機能しません。
そして仮に数字として結果が出ても、組織内がギクシャクし、社員にとって居心地の悪い場所になり、最終的に優秀な人材が離れていく可能性があります。
では、組織文化は、実際の組織パフォーマンスにどのような影響を与えるのでしょうか。大きく3つあります。
3-1. 組織の仕組みが機能するかどうかを左右する
組織デザインでは、役割、権限、チーム構成、情報の流れ、評価制度などを設計します。しかし、その構造の中で人がどう振る舞うかを左右するのが、組織文化です。
例えば、社員へ権限を委譲しても、「失敗したら責任を追及される」という文化があれば、自分で意思決定しようとはしません。
フラットな組織に変えても、「上司には逆らわない」という文化が残っていれば、本当の意味でフラットにはなりません。
部署横断プロジェクトをつくっても、「自分の部署の数字さえ良ければいい」という文化なら、協働は起こりません。
組織図を変えるだけでは、人の行動までは変えられないのです。
言い換えれば、組織文化が定まっていない状態で組織デザインを進めても、それは土台のない場所に建物をつくるようなものです。

3-2. 成果の持続可能性を左右する
業績が良い組織が、必ずしも健全な組織とは限りません。
強烈なトップダウン。過度な社内競争。長時間労働。失敗を許さないマネジメント。
こうした方法でも、短期的には成果が出る場合があります。
しかし、その裏側で、社員が疲弊する。情報を共有しなくなる。新しいことに挑戦しなくなる。人間関係が悪化する。優秀な人材から辞めていく。
そのような状態であれば、本当にパフォーマンスの高い組織と言えるでしょうか。
組織のパフォーマンスとは、単に数字を出すことではありません。良い状態を保ちながら、持続的に高い成果を生み出せること。ここまで含めて考える必要があります。

3-3. 人材の採用と定着を左右する
給与や待遇は、もちろん重要です。しかし、人が長く働きたいと思う理由は、それだけではありません。
ここでは、自分の意見を言える。尊敬できる人たちと仕事ができる。挑戦を歓迎してもらえる。困ったときには助けてもらえる。自分の仕事に意味を感じられる。
こうした日々の体験も、「この会社でもっと働きたい」と思う大きな理由になります。
逆に、誰も本音を言えない。常に誰かの顔色をうかがう。社内政治が激しい。成果を出しても安心できない。
そのような文化では、特に他にも選択肢を持つ優秀な人材ほど離れていきます。
組織文化は、単なる人事施策ではありません。採用、定着、エンゲージメント、生産性、イノベーション、そして企業競争力に関わる重要な経営テーマなのです。

4. 強い組織文化をデザインする3つのステップ
それでは、組織文化はどのようにデザインすればよいのでしょうか。ここでは3つのステップで考えてみましょう。
ステップ1. どんな組織でありたいのかを考える
最初から、格好いい言葉をつくる必要はありません。
まず、経営陣で次のような問いを話し合ってみてください。
失敗が起きたとき、どのように反応する組織でありたいか?
社員同士に、どんな関係性を築いてほしいか?
上司と部下は、どんな関係であるべきか?
この会社では、どんな人や行動を評価したいか?
困っている人がいたとき、どのように行動する組織でありたいか?
成果とWell-beingを、どのように両立したいか?
そして、もう一つ大切なのが、「私たちの組織では、何を許容しないのか?」という問いです。
高い成果を出していれば、周囲を傷つける行動も許すのか。顧客のためであれば、社員の健康を犠牲にしてもよいのか。役職が高ければ、Valuesに反する行動を見過ごすのか。
文化は、推奨する行動だけではなく、何を許し、何を許さないかという境界線によっても形成されます。

ステップ2. 文化から制度・マネジメントまでをつなげる
今回、最もお伝えしたいのが、組織づくりの順番です。
まず、Culture。どんな集団でありたいのかを考える。
次に、MVV。その文化を土台に、存在意義、目指す未来、大切にする価値観を言葉にする。
続いて、Organization Design。その文化とMVVを実現できるよう、組織構造、役割、権限、評価制度を設計する。
そして、Management。日々の会議、1on1、意思決定、フィードバックを通じて実践する。
さらに、その結果として社員がどのような体験をするのか。これがEmployee Experienceです。
その体験が社員の感情や行動をつくり、最終的にOrganizational Performance、つまり組織のパフォーマンスへつながります。
Culture → MVV → Organization Design → Management → Employee Experience → Organizational Performance
すべてを一本につなげて考えることが重要です。

ステップ3. 言葉を仕組みと行動に落とし込む
最後は、組織文化を言語化して終わらせないことです。
例えば、「挑戦する文化をつくる」と決めたとします。
では、挑戦した人を評価しているでしょうか。結果が出なかった人を、一方的に責めていないでしょうか。新しいアイデアを提案できる場があるでしょうか。マネージャー自身が挑戦しているでしょうか。評価制度が、失敗を避ける方向に設計されていないでしょうか。
このように、掲げた文化と、実際の仕組みや行動を一つずつ照合します。
組織文化は、採用、オンボーディング、評価制度、会議、1on1、マネージャー教育、働き方、オフィス環境、社内コミュニケーション、そして経営者自身の行動に現れます。
カルチャーデザインとは、単に「どんな言葉を掲げるか」を決めることではありません。その文化が自然と生まれる環境と仕組みをデザインすることなのです。

まとめ|すべての最上流にある「土台」をつくる
組織文化とは、会社が掲げる言葉ではなく、その会社の中で、日々何が当たり前に行われているかです。
会議で誰が発言するのか。失敗したとき、何が起きるのか。困っている人を、誰かが助けるのか。社員が安心して意見を言えるのか。月曜日の朝、社員がどのような気持ちで会社へ向かうのか。
そして、優秀な人材が「ここでもっと働きたい」と思えるのか。
こうした組織の日常を決めているのが、組織文化です。
組織デザインや組織マネジメントは重要です。しかし、その前に、まず組織文化をデザインする必要があります。
ここが定まっていなければ、どれほど制度や組織図を整えても、マネジメントはうまく機能しません。そして仮に短期的な結果が出たとしても、組織内がギクシャクし、居心地が悪くなり、優秀な人材が離れることにもなりかねません。
だからこそ、組織図を変える前に。評価制度を変える前に。新しいマネジメント手法を導入する前に。
そのさらに前に、一度、経営陣で問いかけてみてください。
「私たちは、どんな文化の会社をつくりたいのか?」
文化は、組織づくりの一要素ではありません。MVV、組織デザイン、マネジメント、社員体験、そして組織の成果をつなぐ、最上流の土台なのです。
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