DeNAが本気で挑む“AIにオールイン”戦略─現場から見えた生成AI活用のリアルとは?
- 山崎 広治
- 8月1日
- 読了時間: 7分
2025年2月、DeNA創業者であり現会長の南場智子氏が放った「DeNAはAIにオールインします。これは“第2の創業”です」という宣言は、テック業界に衝撃を与えました。
この言葉は単なる経営スローガンではなく、全社的な働き方の変革、すなわち“カルチャー変革”の宣言だったのです。現在、DeNAでは開発部門、デザイン部門、調査部門、営業やドキュメント作成チームに至るまで、あらゆる現場でAIが“共に働くバディ”として活用されています。
今回は、YouTube動画『【効率4倍!?】「AIにオールイン」DeNA現場社員のAI活用最前線に突撃!』の内容をもとに、現場社員のリアルな声と具体的なツール導入事例を交えながら、「AIにオールイン」という言葉の真意を掘り下げていきます。

AIは“相棒”へ──使いこなす文化の定着と進化
生成AIを導入しても、多くの企業では「試験導入→浸透せず撤退」という流れに陥ることが少なくありません。その原因は「AIを道具として使う文化が育たないこと」にあります。
DeNAは、この“文化”の醸成に成功しました。彼らはAIを単なる自動化ツールとしてではなく、“仕事の相棒(バディ)”として位置づけています。社員たちは日常的にAIと会話を重ね、プロンプトの試行錯誤を繰り返しながら、「AIとの共創関係」を築いているのです。
AIは質問されたことに答えるだけでなく、試行錯誤のなかで社員自身も「どう聞けばより良いアウトプットが得られるか」を学習します。これが“使い方を覚える”というより、“共に育っていく”という感覚に近く、DeNAのAI文化の根幹にある考え方です。


エンジニアリング部門:AIが生む「時間」と「品質」の革新
動画に登場するエンジニア・中島さんは、サーバー構築業務の大幅な短縮を報告しています。これまで2人で1ヶ月かかっていた作業が、AI導入によって1〜2週間で完了できるようになったといいます。
これは単なる“時間の短縮”にとどまらず、開発ワークフロー全体の再設計につながっています。
従来:
設計 → 実装 → レビュー → テスト → ドキュメント
部門間での分業によるコミュニケーションロス
AI導入後:
一人で高速にPDCAを回す(思考 → 実装 → テスト →修正)
全体最適の視点で開発でき、属人化のリスクも低減
また、RooCodeなどのツールにより、インフラ構築や初期プロトタイプ作成が効率化され、品質も担保されたコードが生まれやすくなっています。AIは単に“速くする”のではなく、“正しく美しいものを、速く作る”力を与えているのです。
使用されている主なツール
RooCode:構築初期の8割をカバーするプロンプト型コード生成ツール
ChatGPT Code Interpreter:ログ解析やデータ整形、複雑演算などを効率化
Claude:高度なテーブル計算や事業シミュレーションにも対応
MCP:ファイル処理や自動操作を統合的に実行

デザイン部門:10案から選べる“創造の民主化”
デザイン部門での生成AI活用も、単なる効率化の枠を超えた“思考の広がり”に貢献しています。デザイナーの木戸さんは、MidjourneyやChatGPT-4oを使い、言葉だけで多様なビジュアルパターンを生成。その中からベストな案を選定する“選択のプロセス”が確立されたことで、従来の1案集中型から、10案比較型へのパラダイムシフトが起こっています。
これは、デザインにおける「第一案の呪縛」からの解放でもあります。
さらに、ChatGPTを活用したペルソナ設計や、Scenarioによる最終レンダリングの自動化など、AIは戦略思考から作業の微調整まで全域にわたり支援を行っています。
デザイン部門での主要ツール
ChatGPT-4o:構成整理、ストーリー化、ペルソナ設計など
Midjourney:複数ラフ案生成、色・構図のバリエーション出し
Scenario:生成画像の部分補完・調整を高速処理

リサーチ&ドキュメント部門:問いの精度が、成果を変える
リサーチ担当の陶山さんは「良いアウトプットは、良い問いから生まれる」という哲学のもと、AIとの“対話設計”に重点を置いています。
たとえば、新規事業リサーチにおいては、FeloやChatGPT Deep Researchを活用し、一次情報を深掘りする。その後、ObsidianやNotebookLMで情報を文脈別に整理し、ナレッジ化して共有する。この一連のプロセスが社内全体の“知のインフラ”となっているのです。
生成AIによって、知識の探索と整理のサイクルが劇的にスピードアップし、従来数日かかっていた調査や資料作成が、1日以内に完結するケースも増えています。
調査・ドキュメント部門の主要ツール
Felo:問いかけベースのチャット型リサーチ
Grok(旧XのAI):トレンドキャッチや動向リサーチ
ChatGPT Deep Research:信頼性の高いソース抽出と要約
Obsidian/NotebookLM:ナレッジ構築とメモ整理に特化

DeNAのAI文化が育んでいるもの
DeNAにおける生成AI活用の根底には、以下のようなマインドセットが共通認識として根づいています。
完璧よりもまず動かす「アクションファースト」
AIは“答えをくれるもの”ではなく、“問い続けるパートナー”
出力を疑い、検証し、改善する文化
この“自律的な試行錯誤”の積み重ねが、結果として各部門の生産性や創造性を高め、AIを「使っている会社」から「共に働く会社」へと進化させています。
生成AI導入が成功するか否かは、「誰がどのように使うか」だけではなく、「会社全体としてどう支えるか」にかかっています。
DeNAでは、南場会長の「AIにオールイン」という明確なトップダウン指示と、現場社員の主体的な試行錯誤が見事に融合しました。各部門が“自分たちの業務における最適なAI活用方法”を模索し、社内で共有し、横展開するカルチャーが醸成されています。
このようにしてDeNAは、「テクノロジー導入」ではなく「働き方そのものの再設計」に取り組んでいるのです。

まとめ:生成AIは“使うか”ではなく“どう使うか”の時代へ
DeNAの「AIにオールイン」戦略は、表面的なツール導入や業務効率化を超え、組織全体の思考様式やカルチャーそのものを変革する挑戦でした。そして、その中核にあったのは、「AIを人間のパートナーとして迎え入れる姿勢」です。
多くの企業が生成AIを「業務効率化」や「人手不足の補填」といった目的で導入しようとしますが、それだけでは真の成果は生まれません。DeNAのように、「AIと共に学び、成長する」文化を育てることではじめて、AIは現場に根づき、チームの生産性や創造性、ひいては企業価値そのものを高める推進力となるのです。
現場の社員たちが自ら試し、失敗し、改善しながらAIと対話し続ける姿勢。そして経営層が明確なビジョンを示し、それを全社的に支援する体制。トップダウンとボトムアップの両輪が回って初めて、「第2の創業」と呼べるようなイノベーションが起こることを、DeNAは私たちに示してくれました。

また、部署ごとのAI活用も“単なる業務の置き換え”にはとどまりません。
エンジニア部門では、PDCAの高速回転と品質向上を両立し、
デザイン部門では、発想の広がりと選択肢の豊かさを手に入れ、
調査・ドキュメント部門では、知の構造化と組織全体への還元力を高めています。
このような成果が生まれている背景には、「まずは動かしてみる」「問いを進化させる」「AIに過信せず常に検証する」といった、実に人間的で、創造的な営みがあったことを忘れてはいけません。
今後、生成AIがますます高性能化し、あらゆる業務領域に広がっていくのは間違いないでしょう。しかしそのとき企業に求められるのは、「導入するかどうか」ではなく、「どう活かし、どんな働き方を再設計するか」という視点です。
「AIがすごい」のではなく、「人とAIがどう関わるか」が鍵を握っている──。
DeNAの取り組みは、そんな未来の働き方に向けた一歩先のモデルケースであり、私たちすべての組織に対する問いかけでもあります。
だからこそ、今私たちが問うべきは次のようなことです。
自分たちの仕事における“問い”を磨き続けているか?
社員が安心してAIと試行錯誤できる環境を整えているか?
トップと現場がビジョンと実践でつながっているか?
生成AIの活用とは、単なる“導入”ではなく、“共創する文化”をどう築くかに尽きるのです。
AI時代の競争力とは、いかに最新のツールを持っているかではなく、いかに深く使いこなし、組織の血肉にできているか。
その答えを、DeNAは静かに、しかし明確に提示してくれています。
AIとともに未来を描く組織の第一歩は、文化を変える決断から始まります。

引用動画:DeNA公式 YouTubeチャンネル
Comments