『陸王』から学ぶ「最高のパフォーマンス」のつくり方|経営・組織・ものづくり・アスリート支援に共通する5つの秘訣
- 山崎 広治

- 17 時間前
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はじめに
先日、2017年にTBSの日曜劇場で放送されたドラマ『陸王』を観ました。
以前から作品の存在は知っていたものの、きちんと観る機会がなく、今回U-NEXTで見始めたところ——あまりの面白さに止まらなくなり、気づけば2日で全10話を見終えていました。
『陸王』は、池井戸潤さんの同名小説を原作にした物語です。
舞台となるのは、埼玉県行田市にある創業100年以上の老舗足袋メーカー「こはぜ屋」。
役所広司さん演じる四代目社長・宮沢紘一が、先細っていく足袋市場と厳しい経営状況の中、会社存続をかけて、これまで培ってきた足袋製造の技術を活かしたランニングシューズ「陸王」の開発に挑戦します。
従業員20名余りの小さな会社。
資金もない。
ランニングシューズ開発のノウハウもない。
そして相手は世界的スポーツメーカー。
普通に考えれば、勝てるはずがありません。
それでも宮沢社長とこはぜ屋の社員たちは、さまざまな人たちとの出会いを通じて、一つひとつ困難を乗り越えていきます。
私がこの作品にここまで惹きつけられたのは、単なる「中小企業が大企業に挑む逆転劇」だからではありません。
そこには、
経営者とは何なのか。
ものづくりとは何なのか。
人のパフォーマンスを支えるとは何なのか。
そして、
異なる専門性を持った人たちが、一つの目的のために「チーム」になるとはどういうことなのか。
私自身が普段考えている「人と組織のパフォーマンス」というテーマにつながる、多くのヒントが描かれていたからです。
今回は『陸王』を通して、企業経営とアスリートサポートに共通する「最高のパフォーマンスのつくり方」について考えてみたいと思います。

1. 経営者とは「すべての答えを持っている人」なのか?
『陸王』を観ていて、まず強く感じたのが宮沢社長の姿です。
宮沢社長は、決して万能な経営者ではありません。
むしろ迷います。
資金繰りに苦しみ、社員から反対され、銀行から厳しい現実を突きつけられ、ときには判断を誤りそうにもなる。
TBS公式インタビューでも、宮沢を演じた役所広司さんは、宮沢について、もともと会社や社員への愛情を持っている一方、それまで新しい一歩を踏み出せなかったことは「経営者としての欠点でもある」と語っています。
しかし「陸王」の開発を通じて、宮沢自身が変わっていきます。
私が特に印象的だったのは、
宮沢社長自身が、ランニングシューズを作れるわけではない
ということです。
素材開発の専門家でもなければ、ランニングフォームの専門家でもない。
それでも宮沢社長は、
「この人の力が必要だ」
と思えば会いに行く。
断られても行く。
また断られても行く。
社員を巻き込み、外部の専門家を巻き込み、銀行や取引先とも向き合いながら、少しずつ「陸王をつくるチーム」を形成していきます。
ここに、経営者の大切な役割があるのではないでしょうか。
経営者は、一番優秀な専門家でなくてもいい
経営者というと、
「自分が答えを出さなければならない」
「社員よりも自分が詳しくなければならない」
「会社のことは自分が一番わかっていなければならない」
と思ってしまうことがあります。
しかし、会社が成長していけば、一人ですべてを把握することなど不可能です。
むしろ経営者に求められるのは、
すべての答えを持つことではなく、答えを持っている人たちを集め、その力を一つの目的へ向けていくこと。
なのかもしれません。
宮沢社長がつくったのは、ランニングシューズだけではありません。
私はむしろ、
「陸王を生み出すチーム」をつくったことこそ、宮沢社長の最大の仕事だった
ように感じました。

2. 「チーム陸王」は、なぜ強かったのか?
陸王開発には、実にさまざまな人たちが関わります。
こはぜ屋の社員。
宮沢の息子・大地。
特殊素材「シルクレイ」の特許を持つ飯山晴之。
スポーツ用品メーカーで長年選手を支えてきた村野尊彦。
ランニングショップを経営する有村融。
銀行員の坂本太郎。
そして陸王を履くランナー、茂木裕人。
それぞれ持っている能力が違います。
価値観も違う。
立場も違う。
最初から全員が仲良しだったわけでもありません。
ときにはぶつかります。
それでも徐々に、
「本当に良いシューズをつくり、ランナーを支えたい」
という目的によってつながっていく。
私はこの姿を観ながら、「強いチームとは何だろう」と改めて考えました。
強い組織とは「問題が起きない組織」ではない
企業ではしばしば、
「問題のない組織をつくりたい」
と考えます。
しかし現実には、事業をしていれば問題は必ず起きます。
『陸王』でもそうです。
ソールの耐久性。
素材の調達。
資金問題。
取引先との関係。
製造機の故障。
大企業との競争。
さらには会社そのものの存続まで。
一つ解決したと思ったら、また次の問題がやってきます。
しかし、そのたびに誰かが知恵を出し、誰かが動き、別の誰かの専門性が活きる。
だから私は、
強い組織とは「問題が起きない組織」ではなく、「問題が起きたときにチームで乗り越えられる組織」なのではないか
と思います。
一人のスーパーマンが解決する組織ではありません。
異なる能力を持った人たちが、それぞれの強みを発揮できる。
それこそが、組織としてのパフォーマンスなのではないでしょうか。

3. ものづくりとは「良い商品をつくること」だけではない
『陸王』でもう一つ強く感じたのが、ものづくりに対する姿勢です。
こはぜ屋には100年以上続いてきた足袋づくりの技術があります。
しかし、その技術をそのまま守り続けるだけでは、会社の未来はないかもしれない。
そこで宮沢社長は、
「自分たちが持っている技術を、別の形で人の役に立てられないか」
と考えます。
ここが非常に重要だと思います。
「何を作っている会社か」ではなく「何を実現する会社か」
こはぜ屋を、
「足袋を作る会社」
と定義してしまえば、足袋市場が縮小した時点で未来も縮小してしまいます。
しかし、
「足袋づくりで培った技術によって、人の足や動きを支える会社」
と捉え直したらどうでしょうか。
突然、ランニングシューズという新しい可能性が見えてきます。
これは現代の企業にもそのまま当てはまります。
自分たちは、
「何を売っている会社なのか」
だけではなく、
「顧客にどんな変化を生み出す会社なのか」
を考える。
商品やサービスそのものではなく、その先にいる「人」を見るということです。

4. シューズを作るのではなく「ランナーのパフォーマンス」をつくる
これは私が『陸王』を観ながら、特に強く感じた部分です。
陸王開発の目的は、単に「高性能なランニングシューズを完成させること」ではありません。
そのシューズを履いたランナーが、
どう走るのか。
からだにどのような負担がかかるのか。
故障から復帰できるのか。
そして、自分本来の走りを取り戻せるのか。
そこまで見ています。
つまり、
シューズそのものではなく、その先にある「人のパフォーマンス」を見ている。
私はここに、ものづくりとアスリートサポートの本質があると思います。
Product DesignからPerformance Designへ
商品をデザインする。
サービスをデザインする。
トレーニングをデザインする。
食事をデザインする。
睡眠環境をデザインする。
オフィスをデザインする。
どれも重要です。
しかし、それらは本来「目的」ではありません。
その先にいる人が、
より健康に、より良い状態で、その人本来の能力を発揮できること。
そこまで含めて考える必要があります。
言い換えれば、
Product DesignからPerformance Designへ。
「何を提供するか」ではなく、
「その人が最高のパフォーマンスを発揮するために、何が必要なのか」から逆算して考える。
私は『陸王』を観ながら、まさにこの発想を感じました。

5. アスリートサポートは「一人の専門家」では完成しない
この視点は、スポーツの世界ではさらにわかりやすいでしょう。
トップアスリートのパフォーマンスは、本人の努力だけで成り立っているわけではありません。
監督やコーチ。
トレーナー。
医師。
理学療法士。
栄養の専門家。
用具メーカー。
データ分析。
家族やマネジメント。
さまざまな人たちが関わっています。
実は『陸王』というドラマそのものも、リアリティを追求するために専門家の力を借りて作られていました。
TBS公式によれば、青山学院大学陸上競技部の原晋監督が「陸上総監督」として参加し、ランナー役の走法指導・監修を担当。
さらにフィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一氏らがトレーニングに協力し、ランナー役の出演者は数カ月にわたって専門的なトレーニングを行っています。
つまり作品の中だけでなく、作品をつくる現場にも「プロフェッショナルチーム」が存在していたわけです。
これは非常に興味深いことです。
一人の専門家がすべてを見る必要はない
私はアスリートや経営者のサポートでも、同じことが言えると思っています。
睡眠だけを見る。
食事だけを見る。
トレーニングだけを見る。
メンタルだけを見る。
それぞれの専門性はもちろん重要です。
しかし、人間のパフォーマンスは、それほど単純ではありません。
だからこそ、
一人ですべてを解決するのではなく、必要な専門家がつながり、一人の人間を多面的に支える。
そんな考え方が、これからますます重要になるのではないでしょうか。

6. 企業経営も、実はアスリートサポートと同じではないか
ここで視点を企業へ戻してみます。
社員のパフォーマンスを高めたい。
エンゲージメントを高めたい。
離職を減らしたい。
組織を活性化したい。
そう考えたとき、私たちはつい一つの施策で解決しようとしてしまいます。
研修をする。
福利厚生を導入する。
健康診断を充実させる。
オフィスを変える。
1on1を導入する。
もちろん、それぞれ必要な施策です。
しかし、アスリートのパフォーマンスを「シューズだけ」で解決できないのと同じように、社員のパフォーマンスも一つの施策だけで決まるわけではありません。
経営戦略。
組織構造。
マネジメント。
組織文化。
人間関係。
働く環境。
睡眠。
食事。
運動。
ストレス。
キャリア。
そして経営者自身の状態。
すべてが影響し合っています。
だから必要なのは、
施策を増やすことではなく、「人と組織が最高のパフォーマンスを発揮するためには何が必要なのか」という視点から全体を設計すること。
なのではないでしょうか。

7. 「チーム陸王」という組織のつくり方
『陸王』の中で、私が最も魅力を感じたのは、最初から存在していたわけではない「チーム」が、物語が進むにつれて出来上がっていくところでした。
宮沢社長。
社員。
職人。
技術者。
シューズの専門家。
銀行員。
ランニングの専門家。
アスリート。
立場も所属も違います。
それでも、
「良いものをつくりたい」
「茂木をもう一度走らせたい」
「こはぜ屋を未来へ残したい」
という思いが重なっていく。
組織づくりで重要なのは、全員を同じタイプの人間にすることではありません。
むしろ逆です。
異なる能力を持つ人がいるからこそ、一人では解決できない問題を解決できる。
大切なのは、
違う人たちが、同じ方向を見ることができるか。
なのだと思います。

8. 福澤克雄監督の演出から感じた「人が動く物語」の力
そしてもう一つ、『陸王』をここまで一気に観てしまった理由として触れておきたいのが、作品そのものの力です。
『陸王』では福澤克雄さん、田中健太さんが演出を担当しています。
福澤さんは、その後『VIVANT』など数々のTBS作品にも携わっています。
『陸王』を観ていると、一つの問題を解決したと思ったら、さらに大きな問題が起こる。
何度も、
「さすがに、もう無理なのではないか」
と思わされます。
しかし、その絶体絶命の状況で誰かが立ち上がる。
そして一人の思いが別の人を動かし、やがてチーム全体が動き始める。
私はそこに池井戸作品ならではの醍醐味と、それを映像として大きな熱量へ変えていく演出の力を感じました。
そして、これは企業にも通じると思います。
人は、正論だけでは動きません。
数字だけでも動きません。
「自分たちは何のためにこれをやるのか」
という物語が必要です。
経営理念やパーパスが重要なのも、言葉を掲げることそのものではなく、一人ひとりが「自分もこの物語の一員なのだ」と思えることに意味があるのではないでしょうか。

9. 最高のパフォーマンスは、一人ではつくれない
『陸王』を全話観終わって、私の中に残ったものを一言で表現するとすれば、
「最高のパフォーマンスは、一人ではつくれない」
ということでした。
ランナー一人では、陸王は作れない。
職人一人でも作れない。
宮沢社長一人でも作れない。
しかし、
それぞれ違う専門性を持つ人たちが集まり、
一つの目的を共有し、
それぞれが自分の力を発揮する。
すると、一人では到底たどり着けなかった場所まで行ける。
これはアスリートだけの話ではありません。
企業も同じです。
経営者一人が頑張り続ける会社から、
一人ひとりが自分の強みを発揮し、互いの力を掛け合わせられる会社へ。
その状態をどうつくるのか。
私はそれこそが「組織のパフォーマンスをデザインする」ということなのではないかと思っています。

まとめ|あなたの会社には「チーム陸王」がありますか?
『陸王』はランニングシューズをつくる物語です。
しかし私には、それ以上に、
「人の可能性を信じ、その可能性を引き出すためにチームをつくる物語」
に見えました。
経営者が一人ですべてを抱える必要はありません。
一人の専門家がすべてを解決する必要もありません。
必要なのは、
「何を実現したいのか」を明確にし、
そのために必要な人、専門性、技術、環境をつなぎ、
一つのチームとして機能させること。
アスリートのパフォーマンスを支えることも、
社員のパフォーマンスを高めることも、
組織を強くすることも、
本質的には同じなのかもしれません。
人を見る。
目的を見る。
そして、その人が最高の力を発揮できる環境とチームをつくる。
これが、私の考える「パフォーマンスデザイン」です。
『陸王』を観終わったあと、改めてそんなことを考えました。
最後に、経営者の皆さんに一つだけ問いかけたいと思います。
あなたの会社には、「チーム陸王」と呼べるチームがありますか?
もし今、経営者自身が一人で走り続けているのであれば。
あるいは優秀な社員や専門家はいるけれど、それぞれがバラバラに走っているのであれば。
必要なのは、さらに人を増やすことでも、新しい施策を増やすことでもないかもしれません。
一度立ち止まり、
「私たちは何のために走っているのか」
そして、
「一人ひとりの力をどう掛け合わせれば、組織として最高のパフォーマンスを発揮できるのか」
を考えてみる。
そこから、あなたの会社の「チーム陸王」が始まるのかもしれません。


参考
TBSテレビ 日曜劇場『陸王』公式サイト
TBSテレビ『陸王』「はじめに」
TBSテレビ『陸王』出演者・登場人物
TBSテレビ『陸王』各話あらすじ
TBSテレビ『陸王』役所広司インタビュー
TBSテレビ『陸王』スタッフ情報
TBSテレビ『陸王』番組陸上総監督・原晋氏に関する公式発表
池井戸潤『陸王』(集英社)
※本記事はドラマ『陸王』を題材に、筆者が経営・組織・アスリートサポートの観点から考察したものです。


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