なぜ今、「健康経営」がこれほどまでに注目されるのか?~その定義と背景を徹底解説~
- 山崎 広治
- 4月23日
- 読了時間: 10分
更新日:5月8日
企業の経営者、人事・労務担当者、そして従業員の健康と企業の未来に関心をお持ちの皆様にとって、変化の波が押し寄せる現代社会において私たちは今、かつてないほど「従業員の健康」というテーマに真剣に向き合う必要に迫られています。
「健康経営」という言葉を耳にしない日はない、と言っても過言ではないほど、多くのメディアやビジネスシーンで取り上げられています。しかし、「結局、健康経営って何?」「なぜ今、うちの会社で取り組む必要があるの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
人口構造の変化、テクノロジーの進化、働き方の多様化、そして予測不能なパンデミック。企業を取り巻く環境は激変し、従来の経営手法だけでは立ち行かなくなりつつあります。このような状況下で、企業の持続的な成長を実現し、厳しい競争を勝ち抜くための重要な戦略として、「健康経営」がクローズアップされているのです。
本日から始まるこの『健康経営&ウェルビーイング経営アカデミー』と題して健康経営、そしてさらにその先にあるウェルビーイング経営について、基礎から実践、応用、そして未来までを体系的に解説していきます。
第1回となるこの記事では、まず健康経営の「定義」を正しく理解し、そして何よりも重要な「なぜ今、健康経営なのか?」この概念がこれほどまでに企業の関心を集めているのか、その多層的な「背景」について、具体的な視点を交えながら徹底的に解説いたします。

1.「健康経営」とは?コストから投資へ、視点の転換
まず、健康経営がどのような考え方に基づいているのかを明確にしましょう。
単に「従業員に健康診断を受けさせる」「体調が悪そうな社員に声をかける」といったレベルの話ではありません。
経済産業省が提唱し、広く認識されている健康経営の定義は以下の通りです。
「企業が従業員の健康保持・増進への取り組みを、単なるコストではなく投資と捉え、経営的な視点から戦略的に実践すること」
この定義には、健康経営の核心が詰まっています。
従来の企業の従業員に対する健康への関わりは、主に「福利厚生」の一環であったり、「労働安全衛生法」などの法令遵守のための最低限の対応であったりしました。もちろんこれらも重要ですが、あくまで「コスト」または「義務」としての側面が強かったと言えます。
これに対し、健康経営は「従業員の健康は、企業が持つ最も重要な資本の一つである」という認識に立ちます。
そして、この「人的資本」である従業員の健康に積極的に「投資」し、心身ともに活き活きと働ける環境を整備することが、結果として企業の生産性向上やリスク軽減、組織力の強化といった形で「経営的なリターン」を生み出すという考え方です。
つまり、健康経営は、経営理念に基づき、従業員の健康状態や安全衛生への配慮を、企業の将来的な収益性や競争力を左右する「戦略的な経営課題」として位置づけ、経営トップのコミットメントのもと、計画的かつ継続的に推進していくアプローチなのです。
これは、従来の「コスト」や「義務」としての健康管理からの、まさにパラダイムシフトと言えます。

2.なぜ今、健康経営が「経営課題」として避けて通れないのか?(多層的な背景)
では、なぜこの「健康経営」という考え方が、今これほどまでに日本の多くの企業にとって避けて通れない経営課題として浮上しているのでしょうか。その背景には、単一の要因ではなく、社会、経済、技術、そして人々の価値観といった多岐にわたる変化が複合的に影響しています。
(1)深刻化する労働力不足と高齢化への対応
日本の人口は減少局面に入り、特に生産年齢人口の減少は避けられません。さらに、少子高齢化が進み、労働力全体に占める高齢者の割合は今後も増加していく見込みです。このような状況下で、企業が持続的に事業を運営していくためには、限られた人材を最大限に活かすことが喫緊の課題となります。
従業員一人ひとりが健康で、高齢になっても元気に働き続けられること、これが「健康寿命」の延伸という社会的な課題であると同時に、企業にとっては熟練したベテラン社員の経験やスキルを維持し、若手社員への技術・知識継承を円滑に進めるための重要な条件となります。
もし従業員の健康問題で長期離脱や早期退職が増えれば、人材不足はさらに加速し、事業継続そのものが危ぶまれる事態にもなりかねません。健康経営は、労働力確保と定着のための戦略的な打ち手なのです。
(2)高騰し続ける医療費と企業への影響
国民医療費は増加の一途をたどり、年間40兆円を超える規模となっています。この医療費の大部分は、企業の健康保険組合や共済組合を通じて賄われています。従業員の健康状態が悪化し、生活習慣病などの慢性疾患を抱える人が増えれば、それだけ医療費が増大し、企業の健康保険料負担を圧迫します。
健康経営を通じて、従業員の生活習慣改善や疾病の予防・早期発見に努めることは、個人の健康維持だけでなく、企業全体の医療費負担の抑制にも繋がります。これは、直接的に企業の財務体質強化に貢献する側面であり、「健康投資」の具体的なリターンの一つと言えます。
(3)見過ごせないメンタルヘルス不調と「プレゼンティーズム」の問題
現代のビジネス環境は、グローバル化、テクノロジーの進化、仕事のスピードアップなどにより、従業員にかかる精神的な負荷が増大しています。長時間労働、複雑な人間関係、曖昧な役割、将来への不安など、様々な要因がストレスとなり、メンタルヘルス不調を訴える従業員が増加しています。
メンタルヘルス不調は、休職や離職といった「アブセンティーズム」(欠勤・休職による労働力の損失)として顕在化するだけでなく、より多くの従業員が「プレゼンティーズム」(心身の不調を抱えながら働くことによる生産性の低下)の状態にあると言われています。
デスクには向かっているものの、集中できなかったり、ミスが多かったり、本来のパフォーマンスを発揮できない状態です。このプレゼンティーズムによる経済的損失は、アブセンティーズムの数倍にのぼるという試算もあり、企業にとって見えない大きなコストとなっています。健康経営は、メンタルヘルスケアの強化を通じて、これらの人的・経済的損失を低減するための重要な手段です。
(4)変化する従業員の価値観と「働きがい」への希求
特にミレニアル世代やZ世代といった若い世代を中心に、「仕事のためだけに生きる」という価値観から、「仕事もプライベートも大切にしたい」「社会に貢献できる仕事がしたい」「働きがいのある環境で働きたい」といった価値観への変化が見られます。
企業が従業員の健康やウェルビーイングに積極的に配慮する姿勢を示すことは、「従業員を大切にする会社だ」というメッセージとなり、企業の魅力度を大きく向上させます。これは、激化する採用競争において優秀な人材を獲得するための重要な差別化要因となります。
また、従業員が会社に大切にされていると感じることで、会社への「エンゲージメント(愛着や貢献意欲)」が高まり、結果として離職率の低下や生産性の向上にも繋がります。
(5)法規制の強化と国・自治体による推進
企業の従業員に対する安全配慮義務は、法律によって定められています。2015年には従業員50人以上の事業場でのストレスチェックが義務化されるなど、法規制は従業員の健康管理に対する企業の責任をより明確にしています。法令遵守は企業の最低限の責務です。
さらに、国(経済産業省など)や自治体は、健康経営の普及・促進に力を入れています。「健康経営優良法人認定制度」はその代表例であり、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践している法人を「見える化」することで、社会的に評価される仕組みを作っています。この認定を取得することは、企業の対外的な信用力向上や、採用活動における強力なアピールポイントとなります。
(6)ESG投資の拡大と企業価値評価の変化
近年、世界の投資家は、企業の財務情報だけでなく、「ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)」といった非財務情報を企業価値を測る重要な尺度として重視するようになっています。
ESGの「S(社会)」の要素には、労働慣行、人権、サプライチェーンにおける社会問題などが含まれますが、その中でも「人的資本」への投資、すなわち従業員の健康、安全、働きがい、人材育成といった項目は、企業の持続可能性を判断する上で非常に重要視されています。
健康経営に積極的に取り組む企業は、人的資本への投資を怠らない、社会的に責任ある企業として評価され、ESG投資を呼び込みやすくなります。これは、資金調達や企業ブランド価値向上に直結する可能性を秘めています。

3.健康経営への「投資」がもたらす、具体的なリターン(期待効果)
これらの複合的な背景から、健康経営は「コスト」ではなく「投資」であるという考え方が、現代の企業経営において非常に現実的かつ重要になってきています。では、この「健康投資」は具体的にどのようなリターン(効果)をもたらすのでしょうか。主な期待効果は以下の通りです。
生産性・創造性の向上: 従業員が健康であることで、集中力が高まり、ミスが減少し、よりクリエイティブな発想が生まれやすくなります。
ワークエンゲージメントの向上: 心身ともに健康で、会社に大切にされていると感じることで、仕事への意欲や組織への貢献意欲が高まります。
プレゼンティーズム・アブセンティーズムの改善: 健康上の問題によるパフォーマンス低下や欠勤・休職を減らし、人的リソースの最大活用に繋がります。
休職率・離職率の低下: 働きやすい環境と健康サポートがあることで、従業員の定着率が向上します。
企業イメージ・ブランド力の向上: 健康経営に取り組む姿勢は、社会や求職者からの信頼獲得に繋がり、採用活動やマーケティングにおいて有利に働きます。
リスクマネジメントの強化: 従業員の健康問題に起因する労務リスクや訴訟リスクを低減します。
コスト削減: 長期的には、医療費負担や残業代、採用コスト、研修コストなどの削減に繋がる可能性があります。
これらの効果は単独で現れるだけでなく、相互に影響し合いながら、企業全体のパフォーマンス向上に貢献します。

まとめ:未来への羅針盤としての健康経営
本記事では、健康経営の定義を明確にし、なぜ今これほどまでに注目され、企業にとって避けて通れない経営課題となっているのか、その多岐にわたる背景について詳しく解説しました。
労働力不足、医療費高騰、メンタルヘルス問題、従業員の価値観変化、法規制、そしてESG投資の拡大。これらの現代社会が抱える複合的な課題に対応し、企業の持続的な成長と競争力強化を実現するために、健康経営はもはや単なる福利厚生の拡充ではなく、経営戦略そのものとして位置づける必要があります。
従業員の健康という人的資本への戦略的な「投資」こそが、不確実な時代を乗り越えるための羅針盤となるのです。
次回以降の連載では、今回触れた期待効果をさらに深掘りしたり、健康経営の具体的な実践方法、成功事例、そして「ウェルビーイング経営」との関連性などについて、より実践的な情報をお届けしていきます。
次回、第2回の記事では、「健康経営・ウェルビーイング経営がもたらす3つの経営メリット」に焦点を当て、企業の収益や成長にどう繋がるのかを具体的に掘り下げて解説します。どうぞご期待ください。
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