経営戦略としての「健康投資」:企業が得られる5つのメリット
- 山崎 広治
- 5月1日
- 読了時間: 7分
前回の記事では、従業員の健康と、さらには心身ともに満たされた状態であるウェルビーイングへの投資が、現代企業にとって不可欠な経営戦略であるとお話をさせていただきました。
単なるコストではなく、将来へのリターンを生む「投資」であるという考え方は、健康経営の根幹をなすものです。
では、具体的にこの「健康投資」は、企業の経営にどのような好影響をもたらすのでしょうか? ここでは、多くの先行企業や研究で明らかになっている、特に企業にとって大きなメリットとなる5つの点を掘り下げて解説していきたいと思います。
これらは、ヒト・モノ・カネ・情報といった企業の経営資源の中でも、最も重要である「ヒト」への投資が、いかに大きな価値を生み出すかを示しています。

【メリット1】 生産性・パフォーマンスの最大化と見えないコスト(プレゼンティーズム)の削減
従業員の健康状態は、日々の業務遂行能力に直接影響します。 身体的、精神的に健康な従業員は、集中力が高く、思考力や判断力が冴え、タスクを効率的に処理できます。
これにより、業務の質が向上し、ミスが減少し、結果として一人当たりの生産性が向上します。
ここで見逃せないのが、「プレゼンティーズム」の問題です。 これは、従業員が何らかの心身の不調を抱えながらも出勤しており、本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指します。風邪気味で集中できない、頭痛で作業が滞る、ストレスで判断力が鈍る、といった状態がこれにあたります。
多くの研究で、このプレゼンティーズムによる生産性の損失は、病気による欠勤(アブセンティーズム)による損失よりもはるかに大きいと指摘されています。
健康経営・ウェルビーイング経営に投資し、従業員の健康状態を向上させることは、この見えにくいプレゼンティーズムによる損失を軽減し、従業員一人ひとりが持つ潜在能力を最大限に引き出すことに繋がります。
心身ともに良好な状態であれば、より創造的な発想が生まれやすくなり、チームでの連携も円滑に進み、組織全体のパフォーマンスが底上げされるのです。

【メリット2】 実質的なコスト削減効果
健康経営への投資は、短期的にはコストがかかるように見えるかもしれません。しかし、中長期的な視点で見れば、様々な面で実質的なコスト削減効果が期待できます。
まず直接的なものとして、従業員の健康状態が改善することで、医療費や健康保険料の増加を抑制できる可能性があります。生活習慣病の予防や早期発見・治療は、将来的な重症化を防ぎ、高額な医療費発生リスクを低減します。
次に、欠勤や休職の減少によるコスト削減です。健康上の理由によるアブセンティーズムが減れば、欠勤期間中の給与支払いや、その穴埋めをするための残業代、代替要員の確保・教育にかかる費用が削減できます。
さらに、人材の採用と育成にかかるコストも大きく削減できます。従業員の健康とウェルビーイングに配慮した働きがいのある職場は、従業員の会社への満足度やエンゲージメントを高め、自発的な離職(離職)を減らします。
優秀な人材が定着することで、新たな人材を採用し、一から教育するコストを大幅に削減できます。これは、特に人材不足が深刻な現代においては、極めて重要な経営メリットです。

【メリット3】 優秀な人材の獲得と定着力の強化
現代のビジネス環境、特に若年層のキャリア観においては、企業が従業員の健康や働きがいをどのように捉えているかが、就職先や転職先を選ぶ上で非常に重要な要素となっています。
給与や待遇だけでなく、「この会社で自分は大切にされるか」「健康に長く働き続けられるか」「心身ともに充実した状態で働けるか」といった点を重視する人が増えています。
健康経営やウェルビーイング経営に積極的に取り組んでいる企業は、「従業員を大切にする会社」「安心して働ける会社」というポジティブな企業イメージを構築できます。このことは、採用活動において強力な武器となり、求職者に対して企業の魅力を効果的に伝えることができます
結果として、応募者の質が向上し、企業が求める優秀な人材を獲得しやすくなります。
また、入社後も、健康管理サポートや働きがいのある環境が整備されていることで、従業員の満足度とエンゲージメントが高まり、会社への貢献意欲が増します。
これにより、エンゲージメントの高い従業員が長期にわたって活躍してくれる可能性が高まり、貴重な人材の流出を防ぎ、定着率を向上させることができます。

【メリット4】 企業イメージ向上とブランド価値の強化
従業員の健康とウェルビーイングへの投資は、社内だけでなく、社外に対しても企業の信頼性や魅力を高めることに繋がります。
健康経営優良法人認定の取得などは、メディアや顧客、取引先、地域社会などに対して、「この企業は従業員を大切にし、社会的な責任を果たそうとしている」という明確なメッセージを発信できます。これにより、企業イメージが向上し、ブランド価値が強化されます。
企業イメージの向上は、単に採用活動に有利に働くだけでなく、顧客からの信頼獲得や、ビジネスパートナーとの良好な関係構築にも寄与します。
また、消費者の中には、企業の倫理的な姿勢や従業員への配慮を購買の基準とする層もおり、売上向上に間接的に貢献する可能性もあります。ESG投資が拡大する中で、企業の「S(社会)」の側面を重視する投資家からの評価も高まり、資金調達の面で有利になることも期待できます。

【メリット5】 組織のレジリエンス強化とリスクマネジメント
予測不能な変化が常態化する現代において、企業には予期せぬ困難や危機に対する適応力、すなわち「レジリエンス(復元力、しなやかさ)」が求められています。
従業員の心身の健康は、組織全体のレジリエンスの源泉です。健康でストレス耐性のある従業員が多く、互いをサポートし合える良好な人間関係(ウェルビーイングの側面)が築かれている組織は、環境変化や予期せぬトラブルが発生した際にも、混乱が少なく、冷静かつ迅速に対応できます。
組織全体のメンタルヘルスが良好に保たれていることは、不確実性の高い時代を生き抜く上で非常に重要な基盤となります。
また、健康経営への取り組みは、企業の法的なリスクマネジメントにも繋がります。労働安全衛生法などの法令遵守は当然として、過重労働による健康障害、メンタルヘルス不調による労災、ハラスメントといった問題は、従業員だけでなく企業にとっても大きなリスクです。
これらの問題に proactively(事前に対策を講じること)取り組むことは、従業員の健康を守るだけでなく、訴訟リスク、賠償責任リスク、そしてそれに伴う深刻な企業イメージ失墜リスクを低減することに直結します。健康への投資は、潜在的なリスクを回避し、安定した企業運営を支える盾となるのです。

まとめ:健康投資は、未来を創る戦略的エンジン
本記事では、健康経営・ウェルビーイング経営を経営戦略として位置づけ、従業員の健康に投資することで企業が得られる5つの決定的なメリット、「生産性・パフォーマンスの最大化」「実質的なコスト削減」「優秀な人材の獲得と定着」「企業イメージ向上とブランド価値の強化」「組織のレジリエンス強化とリスクマネジメント」について詳しく解説しました。
これらのメリットは、単に個々の効果に留まらず、相互に影響し合いながら、企業の収益性向上、競争力強化、そして何よりも不確実な未来を乗り越えるための組織力の向上に貢献します。従業員の健康とウェルビーイングへの投資は、まさに企業の持続的な成長を推進する戦略的なエンジンと言えるのです。
「健康経営に興味は持ったけれど、具体的に何から始めれば良いのだろう?」そうお考えの方もいらっしゃるかもしれません。次回の記事では、健康経営を推進していく上で、まずどこから着手すべきか、その具体的なステップや注意点について解説していきます。
実践に向けた具体的な内容に入っていきますので、どうぞご期待ください。
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