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「健康経営」と「ウェルビーイング経営」の違いとは?

更新日:5月1日

前回の記事では、人口減少や高齢化、ストレス増加といった社会背景を踏まえ、「健康経営」がもはや単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長に不可欠な「経営戦略」「未来への投資」であるというお話をさせていただきました。 第1回:なぜ今、「健康経営」がこれほどまでに注目されるのか?~その定義と背景を徹底解説~

健康経営への取り組みは、従業員の身体的・精神的な健康リスクを管理し、生産性向上やコスト削減といった具体的な効果をもたらす、企業にとって非常に重要な第一歩です。

しかし近年、「健康経営」と並んで、あるいはそれよりもさらに広範な概念として、「ウェルビーイング経営」という言葉を耳にする機会が増えています。

「健康経営とウェルビーイング経営は同じものなの?」「どう違うの?」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。どちらも従業員の「より良い状態」を目指す経営アプローチですが、その視点やスコープには明確な違いがあります。

本記事では、この二つの概念の違いを掘り下げ、なぜ今、単なる健康に留まらない「ウェルビーイング」というより広い視点を持つことが、企業にとって極めて重要になっているのかを詳しく解説します。



1.「健康経営」が焦点を当てる領域

まず、前回もお話しした「健康経営」がどのような領域に主眼を置いているのかを改めて整理したいと思います。

健康経営は、主に従業員の「健康リスクの低減」と「健康状態の維持・改善」に重点を置くアプローチです。具体的には、身体的な健康(生活習慣病予防、運動不足解消、健康診断結果の改善など)と、精神的な健康(ストレスチェック、メンタルヘルスケア、ハラスメント対策など)が主な対象となります。

その目的は、従業員の健康に起因する様々な損失(「アブセンティーズム:欠勤・休職」や「プレゼンティーズム:心身の不調による生産性低下、医療費増加、労災リスクなど」)を低減し、これによって労働生産性の向上やコスト削減、企業リスクの低減といった経営的なリターンを得ることにあります。

経済産業省の定義にあるように、「経営的な視点から戦略的に」健康を管理・推進する点に特徴があります。健康経営は、企業が従業員の基本的な健康を確保し、働く上での最低限のリスクを取り除くための、非常に堅固な土台となる考え方です。



2.「ウェルビーイング」とは?健康を超えた、満たされた状態

次に、「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉について考えてみたいと思います。ウェルビーイングは直訳すると「幸福」や「福利」となりますが、近年では「心身ともに満たされた状態」「良好な状態」といった、より広範でポジティブな概念として捉えられています。

世界保健機関(WHO)憲章の前文には、

「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態である(A state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.)」

という有名な一節があります。ウェルビーイングは、このWHOの健康の定義をさらに拡張し、個人の人生全体の充実度にまで踏み込む概念とも言えます。

単に病気がない、ストレスが少ないというだけでなく、「生きがいを感じているか」「良好な人間関係を築けているか」「経済的な安定があるか」「自己成長を実感できているか」「社会とのつながりを感じられるか」といった、多角的な要素を含んだ、主観的でポジティブな状態を指します。

そして「ウェルビーイング経営」とは、このウェルビーイングの状態を、従業員一人ひとりが実現できるように組織として働きかける経営アプローチです。企業の目的は、従業員の健康リスクを管理するだけでなく、従業員の人生全体の質を高め、満たされた状態で働ける環境を創出することに置かれます。



3.違いを明確に:健康経営 vs ウェルビーイング経営

ここで、二つの概念の違いを比較して整理してみたいと思います。

比較項目

健康経営

ウェルビーイング経営

主眼

従業員の「健康リスク低減」「健康状態維持・改善」

従業員の「心身ともに満たされた状態(Well-being)」の向上

スコープ

主に「身体的健康」「精神的健康」

「身体的」「精神的」に加え、「社会的」「経済的」「キャリア」「地域社会」など、人生全体に関わる多角的な要素

主な目的

疾病予防、医療費削減、アブセンティーズム/プレゼンティーズム改善、生産性向上、リスク低減

エンゲージメント向上、創造性発揮、レジリエンス強化、働きがい創出、企業文化醸成、イノベーション促進

効果測定

健康診断データ、ストレスチェック結果、疾病率、休職/離職率、医療費、残業時間など

従業員満足度/エンゲージメントサーベイ、幸福度スコア、パルスサーベイ、定性的なフィードバック、イノベーション件数など

アプローチ

リスク管理、予防、改善指導

ポジティブな状態の促進、強みの活用、自己実現の支援、良好な関係性構築、多様性の受容

焦点

健康状態の「マイナスをゼロに」し、ゼロからプラスへ

健康を土台に、「ゼロからプラスを大きく」する

このように、健康経営は従業員の健康状態という比較的客観的な側面に焦点を当て、リスク管理や効率化を目指す傾向があるのに対し、ウェルビーイング経営は、従業員の「満たされている感覚」や「人生の質」といったより主観的で広範な側面に光を当て、従業員のポテンシャルを最大限に引き出すことを目指す、と言えます。

健康経営はウェルビーイング経営の重要な基盤となりますが、ウェルビーイング経営は健康経営を包み込み、さらに広い領域を対象とする概念です。



4.なぜ今、「ウェルビーイング」という、より広い視点が重要なのか?

では、なぜ今、単なる健康管理の枠を超えて「ウェルビーイング」という包括的な視点を持つことが、企業にとって避けて通れない課題となっているのでしょうか。

(1)激変する時代に必要な「レジリエンス」と「創造性」 VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる現代において、企業には変化への適応力や困難を乗り越える力(レジリエンス)が不可欠です。

ウェルビーイングが高い従業員は、困難な状況でも柔軟に対応し、前向きに課題に取り組む傾向があります。また、新しい価値を生み出す「創造性」は、単に健康であるだけでなく、心理的安全性が高く、好奇心や探求心が満たされる環境(ウェルビーイングの要素)から生まれやすくなります。ウェルビーイング経営は、変化に強く、イノベーションを生み出す組織づくりに貢献します。


(2)多様な人材が活躍できるインクルーシブな環境づくり 多様な働き方や価値観を持つ人材が増える中、画一的な健康管理だけでは、すべての従業員のニーズに応えることはできません。ウェルビーイング経営は、身体・精神だけでなく、性別、年齢、文化、ライフスタイル、経済状況、キャリア目標など、従業員一人ひとりの多様な背景を考慮し、それぞれが自分らしく、満たされた状態で働ける環境づくりを目指します。

これは、組織のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進する上でも非常に重要な考え方です。


(3)人材獲得競争における決定的な差別化要因 前回の記事でも触れましたが、求職者、特に若い世代は、企業のパーパス(存在意義)や、従業員をどのように扱うのかを重視しています。

「従業員のウェルビーイングを本気で考えている企業」という姿勢は、給与や福利厚生といった条件面だけでなく、企業のカルチャーや働きがいといった情緒的な側面で、競合他社との決定的な差別化要因となります。ウェルビーイング経営は、優秀な人材を惹きつけ、定着させるための強力なドライバーとなります。


(4)「働きがい」の向上と、組織・個人の持続的成長 従業員が単に健康であるという状態(ゼロ地点)にあるだけでなく、「この会社で働くことに意義を感じる」「自分の仕事を通じて成長できている」「良好な人間関係の中で安心して働ける」といった、ウェルビーイングの高い状態にあるとき、彼らは「働きがい」を感じ、自律的に高いパフォーマンスを発揮するようになります。

ウェルビーイング経営は、組織と個人の両方が持続的に成長していくための、内発的なモチベーションを引き出すアプローチです。



まとめ:ウェルビーイング経営は、健康経営の進化形

本記事では、「健康経営」が従業員の健康リスク管理とその経営的効果に焦点を当てたアプローチであるのに対し、「ウェルビーイング経営」は、心身の健康に加え、社会的、経済的、キャリアなど、人生全体の満たされた状態(ウェルビーイング)を向上させることを目指す、より広範で包括的な概念であることを解説しました。

健康経営は、ウェルビーイング経営の重要な土台となります。しかし、予測不能な現代において、企業が人材を獲得・定着させ、多様性を活かし、レジリエンスと創造性を発揮していくためには、単に健康リスクを管理するだけでなく、従業員一人ひとりのウェルビーイング向上に戦略的に取り組む視点が不可欠です。

ウェルビーイング経営は、健康経営の進化形であり、従業員が「健康だから働ける」というレベルを超え、「満たされているからこそ、最大限の力を発揮し、組織に貢献したい」と思えるような、より高いレベルのエンゲージメントとパフォーマンスを引き出す可能性を秘めています。

次回の記事では、健康経営やウェルビーイング経営に具体的に取り組むことで企業が得られる、より詳細なメリットについて掘り下げていきます。


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