社員の生産性とウェルビーイングを両立する新しい働き方──生成AIで“整える”職場へ
- 山崎 広治
- 6月12日
- 読了時間: 10分
更新日:6月20日
はじめに:働き方改革のはずが、むしろ“疲れている”職場へ
近年、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)が盛んに推進されてきました。しかし、現場の実感はどうでしょうか?
「会議が増えた」「SlackやTeamsの通知が止まらない」「毎日が業務に追われて終わる」。そんな“働き方改革疲れ”とも言える状態に陥っている企業は少なくありません。
その結果、社員の集中力や創造性は奪われ、心身の不調やモチベーションの低下、さらには離職リスクにつながるケースも出ています。
そこで、今あらためて注目されているのが、生成AIとウェルビーイングの融合による新しい働き方です。単なる効率化にとどまらず、“整った状態で働く”ことをサポートするテクノロジーの活用──その本質的な意義に、多くの企業が気づき始めています。

1. 生成AIは“時短ツール”に加えて、“思考と心身の拡張パートナー”
生成AIは、メールの文章作成、議事録の要約、資料のたたき台作成など、さまざまな業務を代行してくれます。しかし、最も大きな価値は「時間と脳の余白を生み出すこと」にあります。
1-1. “作業の時間短縮”がもたらす“心身の余裕”
たとえば、30分かかっていたレポート作成が、生成AIによって5分で完了する。
こうして生まれた「20分の余白」は、業務効率だけでなく、心の安定や体の回復に使うことができます。
この時間を使って、一息ついたり、次の業務に向けた準備をしたり、あるいは深呼吸するだけでも、その後のパフォーマンスは大きく変わります。業務に忙殺されていた社員が、ほんの少しの余裕を持つことで、人とのコミュニケーションが丁寧になり、周囲への配慮が生まれ、チーム全体の雰囲気も好転するという好循環が生まれます。
現代のビジネスパーソンが直面しているのは、「業務量の多さ」以上に、「意思決定疲れ」「情報の過負荷」による脳疲労です。AIが日常業務を代行してくれることで、単なる時間の短縮にとどまらず、「次に向けた準備」「内省の時間」「周囲との関係性づくり」など、働き方の質を高める投資時間を確保できるのです。

1-2. 心身の余裕が、思考の拡張を可能にする
生成AIは、単なる作業代行者ではなく、思考の“伴走者”にもなり得ます。
自分では思いつかなかったアイデアの切り口を提示
アイデアを言語化し、論理的に構造化
関連事例や異業種の知見を瞬時に検索・引用
これらの支援を通じて、視野を広げ、思考のジャンプを促します。
AIとの対話を通じて、「より深く考える」「新しい可能性を探る」ことが日常化され、知的生産性が飛躍的に向上します。
特にクリエイティブな仕事、企画立案、課題解決が求められる場面では、生成AIの提案を“叩き台”とすることで、社員はより俯瞰的・多面的に物事を考えられるようになります。チームでのブレストも、AIの示唆を起点にすることで、発想の幅が広がり、議論の質が向上するケースが増えています。

1-3. 「AIが考えてくれる」ではなく「AIと一緒に考える」
重要なのは、AIを任せる対象とするのではなく、「共に思考するパートナー」として扱うことです。こうしたスタンスがあることで、生成AIは単なる“時短ツール”の枠を超え、心身の健康やクリエイティビティを支える本質的な存在になります。
AIと向き合うとき、「自分はどう考えているか」「なぜこの案に違和感があるのか」を言語化する機会が増えます。これは、メタ認知を高め、自身の思考のクセや得意・不得意を知るきっかけになります。また、「あえて反対の視点で考えてみる」など、思考の柔軟性を養う訓練にもつながります。
こうして生成AIとの“共創”を習慣化することが、思考力の鍛錬とウェルビーイングの両立を実現していくのです。

2. 社員の“疲労とムダ”を減らせば、健康経営になる
働く人の健康を支える取り組みとして、「健康経営」が注目されて久しいですが、いまだにその多くは“身体”にフォーカスしがちです。社内ジムの設置、フィットネス支援、ウォーキングイベントの実施などは確かに重要です。しかし実際の現場で、社員が本当に疲弊しているのは、目には見えない“脳と心”の負荷です。
2-1. 「見えない疲労」が、パフォーマンスを奪っている
現代の職場環境は、表面的には整っているように見えても、実際には「見えない疲労」によって多くの社員が苦しんでいます。膨大なチャットの通知、即時対応を求められるメール、複数のツールにまたがるタスク管理──これらは一つひとつは些細に見えても、積み重なれば脳に大きな負荷をかけます。
特に脳の「ワーキングメモリ」は、短期的な情報処理を担う重要な機能であり、ここが常にフル稼働している状態では、新たな思考や創造的な発想は生まれにくくなります。疲弊が進むと、イライラや焦燥感が生まれ、人間関係の摩擦にもつながりかねません。
さらに、こうした疲労の蓄積は、結果として「やる気の低下」「責任回避」「学習意欲の減退」などにつながり、組織全体のパフォーマンスにも影を落とします。。

2-2. AIが支援する、“ムダのない働き方”の構築
生成AIは、こうした見えない疲労の元凶である「ムダな業務」「意味のない負荷」を可視化し、削減する強力な手段となります。
会議の自動議事録化:重要ポイントだけを抽出し、無駄な会話を削減
報告書や提案資料のひな形作成:構成に悩む時間を大幅に短縮
社内通知やリマインダーのテンプレート化:繰り返し発生する業務のルーチン化
これらの支援により、社員は「何をやるべきか」「どこにエネルギーを注ぐべきか」という本質的な問いに集中できるようになります。AIは決して「業務を奪う存在」ではなく、「社員の判断力と集中力を守る存在」なのです。
また、ムダを削ることで時間にゆとりが生まれ、昼休みに外を歩く、短時間の仮眠をとる、社員同士の対話を増やす──といった“健康的な選択肢”も取りやすくなります。こうした小さな変化が、社員の回復力(レジリエンス)を育み、持続的なパフォーマンスを支える土壌となるのです。

2-3. 「がんばらない文化」を許容する空気づくり
日本の職場文化には、「一所懸命がんばる人」が高く評価され、「余裕がある人」や「効率的に働く人」は時に冷ややかな視線で見られるという空気が残っています。しかし、健康経営が目指すべきは、「がんばらなくても成果が出る」環境づくりです。
生成AIの導入により、社員一人ひとりの能力や努力に依存せず、「仕組みによって支える働き方」への移行が可能になります。つまり、「個人のがんばり」から「チームの仕組みと戦略」へと、価値観をシフトするのです。
これは単なる効率化ではなく、「心理的安全性の確保」にもつながります。AIがサポートしてくれることで、「ミスを恐れずチャレンジできる」「業務に追われすぎず学ぶ余裕がある」という風土が育ちます。その結果、社員の成長意欲やエンゲージメントも高まり、職場における“幸福度”が着実に上がっていきます。

3. 組織として導入すれば、人的資本経営の武器に
生成AIの活用が個人レベルに留まっている企業は、まだまだ多いのが現実です。しかし、これを組織レベルにスケールアップさせることで、“人に依存しない成長基盤”をつくることが可能になります。これは、いま注目されている「人的資本経営」の本質にも直結します。
3-1. 人的資本経営とは、「再現可能な組織能力づくり」
人的資本経営は、「優秀な個人が活躍する場を作る」ことではなく、「どの社員でも一定水準の成果を出せる仕組みを作る」ことが本質です。属人的な業務や知識が多ければ、社員の退職や配置転換によって生産性は簡単に揺らいでしまいます。
生成AIは、この課題を抜本的に解決するための道具です。
業務プロセスやノウハウを自然言語で記録・検索可能にする
ベテラン社員の知見をQ&Aデータベースとして形式知化
FAQや手順書をAIが補完・強化し、誰でも同じ水準の対応が可能に
こうしたナレッジの“見える化”と“再現性の担保”は、離職リスクの低減、新人の早期戦力化、社内の学習文化の促進など、多方面での効果を発揮します。つまり、人的資本を「企業の資産」として蓄積し、将来的な企業価値の向上へとつなげる基盤になるのです。

3-2. 健康経営・人的資本開示とのシナジー
生成AIの活用は、企業の外部発信や評価にも直接つながります。 たとえば、以下のような成果はそのまま人的資本の指標として報告が可能です。
「情報迷子」の社員が減少し、ストレスチェック結果が改善
育成業務の標準化により、教育コストと離職率が減少
生産性や業務効率のKPIを定量的に可視化・報告可能
これらの実績は、「健康経営優良法人」や「人的資本可視化指針」への対応材料となり、ESGスコアや統合報告書に反映しやすくなります。つまり、生成AIの導入は、社内の働きやすさ向上だけでなく、企業の対外的評価や株主・投資家からの信頼獲得にも直結する施策なのです。

3-3. 経営戦略とつながる「AI×ウェルビーイング」施策へ
生成AIは、業務効率化の枠を超え、経営の一部として活用されるべき段階に来ています。「健康」と「成長」を両立するための戦略的ツールとして位置づけ、以下のような経営視点での設計が求められます。
社員の疲労軽減と創造性の発揮を目的にAI活用を位置づける
組織全体のAIリテラシー向上と健康意識の定着を同時に推進
部署横断型のプロジェクトとして、人的資本戦略の柱に据える
このような視点を持てば、AIは単なる「ツール」から「経営施策」へと昇華し、企業の中長期的なビジョン達成に貢献します。
中小企業やベンチャー企業においても、ひとつの部署・一つのプロジェクトから導入を始め、「成果と健康」の両立モデルを構築することが、次世代の組織戦略の鍵となります。

まとめ:人とAIが共に“整う”ことで、組織のパフォーマンスは最大化する
これまで見てきたように、生成AIの活用は単なる“業務効率化”にとどまりません。時間の余白を生み出し、心身の余裕をつくり、思考の質を高める──。つまり、人間が本来の力を発揮できる「整った状態」をつくる、現代の“健康インフラ”のような存在なのです。
しかもこれは、個人だけでなく、組織全体の健康にも波及します。
社員は「疲れすぎず、がんばりすぎない」働き方にシフトできる
マネジメント層は「仕組みで支えるマネジメント」に切り替えられる
組織としては「人とテクノロジーが共創する、持続可能な生産性モデル」が構築できる
まさに、ウェルビーイング経営×生成AI=本質的なパフォーマンス経営への進化です。
「でも、ウチはまだ生成AIを導入していないし、難しそう…」そんな声もあるかもしれません。でも安心してください。大がかりな導入やIT知識は必要ありません。まずは“疲労とムダ”をひとつ減らすことからで十分です。
✅ いますぐできる、実践のスタート例
やりたいこと | 使うAI | 想定効果 |
会議の議事録を要約したい | Notta、NotebookML 、Circlebackなど | 記録作業のストレス軽減・集中力UP |
提案資料の構成を考えたい | ChatGPT、Claude、Gemini、Gensparkなど | 構成のたたき台を自動生成・思考の拡張 |
社員に健康習慣を届けたい | LINE bot + GPT連携、DifyやGPTsでの構築など | 食事・睡眠・ストレッチ習慣の自動化支援 |
AIに社内ナレッジを覚えさせたい | Notion AI、NOSlack GPT連携、Difyでの構築など | 暗黙知→共有知化、属人化の解消 |
まずは1部署・1タスクで試してみることが大切です。「業務が楽になった」「考えやすくなった」「残業が減った」といった小さな声が、やがて組織全体に広がっていきます。
生成AIと聞くと、「冷たい機械的な存在」というイメージを持たれがちです。ですが、実際に使ってみると、人の思考を助け、感情を落ち着け、創造性を引き出す“あたたかい支援者”であることに気づくはずです。
社員一人ひとりの“脳と心の健康”を守ることは、業績に直結します。そして、企業が本来持っているパフォーマンスを発揮するためにも、テクノロジーの力を恐れず、味方につけていくことが必要です。
人が整う。AIが整う。この2つが合わさったとき、組織は真に整い、高い成果と幸福感の両立を実現できるのです。
【お知らせ】じつはこの度2025年4月より、「社員の健康・パフォーマンス向上」や「健康経営・ウェルビーイングの推進」を支援する新たなサービスをスタートいたしました。
現在ご提供している主なサポートは以下の通りです
・健康経営コンサルティング / CHO(Chief Health Officer)代行
・健康経営優良法人などの認証取得サポート
・睡眠や栄養、マインドフルネスなどのヘルスケア研修・演劇やパーパス探究を活用したチームビルディング研修
・健康測定や農業、フェムテック、SDGsなどのヘルスケア体験会
・社員のコンディションを整える福利厚生導入サポート など
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