その「見えない赤字」、決算書には載っていません。経営者が今すぐ知るべき「プレゼンティズム」の正体
- 山崎 広治

- 7月24日
- 読了時間: 7分

はじめに
毎年の決算書には絶対に出てこない「見えない赤字」が、もしあなたの会社に存在するとしたらどうでしょうか。
社員はきちんと出社している。でも睡眠不足や慢性的な疲労、精神的なストレスによって、本来のパフォーマンスを発揮できていない。この状態は「プレゼンティズム」と呼ばれ、ある試算によれば、従業員数千人規模の企業では年間20億円もの経済的損失を生み出しているともいわれています。
多くの企業が社員の健康施策として取り組んでいるのは、定期健診の受診率向上やストレスチェックの義務化です。でも実は、経営に最も大きなダメージを与えているのは、会社を休んでいる社員ではありません。出社しているのに、成果を出せていない社員の存在なんです。この記事では、この「見えない赤字」の正体と、それを解消するための組織としての具体的な打ち手を解説していきます。

1. プレゼンティズムという「見えない赤字」の正体
1-1. アブセンティズムとの違い
まず押さえておきたい2つの用語があります。1つ目は「アブセンティズム」。病気や体調不良で欠勤・休職している状態のことです。誰の目にも明らかで、人事部門もコストとして把握しやすい指標といえます。
2つ目が「プレゼンティズム」。出勤はしているけれど、心身の不調によって本来のパフォーマンスが劇的に低下している状態を指します。慢性的な寝不足で頭がぼーっとする、偏頭痛で集中力が続かない、腰痛がひどくて作業スピードが落ちる。こうした状態が、まさにプレゼンティズムです。

1-2. 企業コストの70〜80%を占める現実
経済産業省などの調査によると、企業の健康関連コストのうち、約70%から80%以上をプレゼンティズムが占めているといわれています。従業員数が数千人規模の企業であれば、年間15億円から20億円という規模の見えない損失が発生している計算になります。

1-3. 「休まず出社=安心」という誤解の危うさ
「社員が休まず真面目に出社しているから大丈夫」という考え方は、経営指標としては極めて危険です。目に見えるアブセンティズムだけを追いかけていると、実はその何倍もの損失を生んでいるプレゼンティズムを見逃してしまうことになります。
2. 見えない赤字はなぜ生まれるのか
2-1. 「仕事の質と量は比例する」という古いパラダイム
根本的な原因はどこにあるのでしょうか。多くの企業が陥りがちなのが、「仕事の質と量は比例する」という古いパラダイムです。重要なプレゼンの前日に徹夜で資料を作り、エナジードリンクで乗り切って本番に臨もうとする。短期的には通用しても、中長期的には確実なパフォーマンス低下を招きます。

2-2. トップアスリートに学ぶリカバリーの重要性
プロのサッカー選手や陸上選手が、試合の前日に気合を入れるために徹夜でトレーニングを行うでしょうか? 絶対にあり得ませんよね。トップアスリートにとって、回復である「リカバリー」は、厳しいトレーニングと同等か、それ以上に重要なタスクなんです。欧米のトップ企業やシリコンバレーの企業の間では、今や「ビジネスパーソンもトップアスリートと同じようにコンディションを管理すべきだ」という考えが主流になっています。それが「コンディション=成果」という新常識です。

2-3. 疲労蓄積と自律神経の乱れという医学的事実
パフォーマンス低下の根本原因をたどっていくと、ほとんどの場合、脳と身体の疲労が蓄積し、適切に回復できていないことに行き着きます。睡眠の質が低下して自律神経のバランスが崩れると、認知機能や判断力は著しく低下する。これは根性でカバーできるものではなく、純粋な医学的・生理学的な事実なんです。経営者はまず、社員の身体の回復=「リカバリー」という土台に投資する必要があります。

3. 解決の鍵は「データの活用」
3-1. 主観的な健康管理の限界
これまでの健康管理は、非常に主観的なものでした。上司が部下に「最近疲れてないか?」と聞いて、「大丈夫です、やれます」と返ってくる。こんなやり取りが実情だったと思います。でも、人間は自分の疲労に対して驚くほど鈍感なんです。アドレナリンが出ている状態では、本当は倒れる寸前でも「自分は元気だ」と錯覚してしまう。

3-2. HRVなど客観的バイオマーカーの力
そこで重要になるのが、心拍数や睡眠時間、そしてHRV(心拍変動)といった客観的なバイオマーカーデータです。自律神経の状態をリアルタイムで示すHRVなどの数値をトラッキングすることで、主観的な元気さに騙されることなく、科学的なエビデンスに基づいた客観的なコンディション把握が可能になります。

3-3. データドリブンな管理がもたらすエンゲージメントと定着効果
データに基づいた健康管理を組織に導入することは、病気を減らす以上の効果をもたらします。社員の睡眠の質が向上してエネルギーレベルが高まると、仕事へのモチベーション、いわゆる「ワークエンゲージメント」も自然と上がっていきます。そして「会社が自分たちの健康を科学的にサポートしてくれている」という事実は、企業へのロイヤリティを劇的に高めます。データドリブンなコンディション管理は、最強の離職防止策であり、同時に採用ブランディングでもあるんです。

4. 組織として実践すべき3つのアプローチ
4-1. 全社的な研修で意識をアップデートする
睡眠や自律神経の不調がパフォーマンスにどう影響するかという知識は、全員にとっての必須スキルです。特に近年重要度が高まっているのが、女性特有の健康課題です。月経随伴症状やPMS、更年期症状などによるプレゼンティズムへの影響は計り知れないのに、多くの社員が正しい理解がないまま、我慢して自己流で対処しているのが実情です。研修を通じて、「不調は我慢して働くもの」という過去のマインドセットを組織全体でアップデートできます。

4-2. 環境づくりへの先行投資
学んだことを日常行動に落とし込むための仕組みも必要です。高機能寝具の購入補助、コンディショニング専門施設の費用サポート、健康的なオフィスランチやサプリメントの提供などは、単なるご褒美ではなく、経営戦略的な先行投資として位置づけるべきものです。

4-3. パーソナライズされた個別支援
慢性的な不調を抱える社員や、デリケートな課題を持つ社員には、専門家がバイタルデータを踏まえてワンオンワンでアドバイスを行う支援が不可欠になります。自分専用のフィジカルコーチのような存在が伴走することで、ベストパフォーマンスの持続が実現できるんです。

5. 経営トップの役割とコストの捉え方
5-1. 経営者自身が変わることの重要性
この3つのアプローチを機能させるために、最も重要なのが経営者自身が変わることです。「俺は毎日3時間睡眠で働いている」と語るトップがいる組織では、社員がコンディションを整えることは不可能です。トップが率先してリカバリーに努める姿勢を見せることで、初めて社員も「休むことは正当なビジネススキルである」と認識できるようになります。

5-2. 投資対効果で考えるコンディション管理
ウェアラブルデバイスの配布などはコストが高いという声もあります。でも、毎年20億円の損失が垂れ流されている現状において、その1%の予算を投資して改善できれば、数億円規模の利益改善に直結します。コンディションへの投資は、もはや福利厚生ではなく、企業の営業利益を直接的に押し上げる最強の成長戦略なんです。

まとめ
プレゼンティズムは、アブセンティズムよりもはるかに大きな経営損失を生み出しています。気合と根性で乗り切る時代はすでに終わり、疲労と回復を科学的にマネジメントするスキルが、経営者にも社員にも求められる時代になりました。研修、福利厚生、個別サポートという3つのアプローチを組み合わせて組織全体の仕組みをつくり、何より経営トップ自身が率先してリカバリー戦略を実践することが、最大のリターンを生みます。あなたの会社の「見えない赤字」は、すでにすぐそこまで迫っているかもしれません。今こそ、組織のコンディション管理を根本から見直すタイミングではないでしょうか。
KDMでは、こうしたプレゼンティズムの実態を可視化する健康経営診断や、健康経営優良法人認証取得に向けたサポート、そして研修・組織改善のためのコンサルティングを行っています。「自社の見えない赤字がどれくらいあるのか知りたい」「何から手をつければいいか分からない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。



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